テクノロジーが生演奏の体験をどう変えるのか。そんな実験的な問いかけから、2018年にはじまった日本フィルハーモニー交響楽団と落合陽一のコラボレーション。その最新公演『null²する音楽会』が、2025年夏、サントリーホールと大阪・関西万博で上演される。
オーケストラに、能や狂言、AI生成の映像が交わり、耳だけではなく、全身で音を感じる舞台へ。ここでは、音と映像、古典と未来、人と自然……その境界は、ぬるぬると掴みどころがない。
7月7日、セルリアンタワー能楽堂で開催された記者懇談会から、その詳細を紹介する。
今回の指揮を務めるのは、日本を代表する指揮者広上淳一。演奏されるのは、久石譲『天空の城ラピュタ』、坂本龍一『THE LAST EMPEROR』、林光や菅野祐悟の大河作品、レスピーギ『ローマの松』など、視覚的な広がりと物語性に富んだ名曲ばかり。クラシックの名作と現代作品が並ぶプログラムが、“音を感じる”体験へと誘う。
落合がこのプロジェクトに取り組むようになったのは、「オーケストラって、ある意味、意地のかたまりだな」と感じたことがきっかけだったという。
「なぜこの時代に、生の演奏を、こんなにも全力でやるのか。なぜ日本でやるのか。それを考え続けてきたのが、このシリーズなんです」
ベルリン・フィルの映像が家のテレビに届く時代。それでも、日本という場所でオーケストラをやる意味とは。コロナ禍の静けさのなかで、その問いはひときわ重く響いたという。落合は、答えを探すように日本各地の文化を訪ね歩き、アイヌ、琉球古典、醍醐寺の僧侶、そして能や狂言などの伝統芸能と出会ってきた。
そこから生まれたのが、今回の「『null²する音楽会』だ。タイトルにある「null²(ぬるぬる)」は、大阪万博に出展される落合のシグネチャーパビリオンの名前でもある。
nullは、英語で「ゼロ」や「無」、そして自然とつながる余白のようなものを意味する。それを“二乗”することで、すべての境界がとけていくような状態、すなわち言葉と感覚、デジタルと身体、人と自然のあいだが、ぬるぬると混ざり合っていくイメージをあらわす。
「人間が記号や言語の境界を超えて、自然(ヌル)に戻っていく儀式なんです。テクノロジーは、私たちが失いかけた自然との関係を結び直すための媒体にすぎない」と落合。「その上で、今年の公演は、『null²する音楽会』という、実にふざけた名前ではあるのですが、大阪万博でのパビリオンが『null²(ぬるぬる)』という名前で、これもふざけた名前ではあるのですが、ふざけているようで真面目で、真面目でいるようでちょっと抜けているというのがポイントです」



