「呼び寄せ」の2大送出地
こうした「呼び寄せ」は一般に「チェーン・マイグレーション(連鎖移民)」と言われている。特定の地域から家族や親族、同郷の人たちが先に海外に渡った華僑から呼び寄せられ、彼らのビジネスを支えていくもので、親族や同郷人を中心とする共同体の絆が国境を越えていくこの人の流れは、ガチ中華のみならず、華僑の海外ビジネスを根幹で支えているといってもいいだろう。
実は、日本の新華僑には2つのチェーン・マイグレーションの送出地があることが知られている。在外華人の研究で知られる山下清海筑波大学名誉教授編著の『改革開放後の中国僑郷-在日老華僑・新華僑の出身地の変容』(2014年 明石書店)によると、福建省福清市と黒龍江省ハルビン市方正県がそれである。
ガチ中華の店が多く出店されている埼玉県のJR西川口駅前に「一般社団法人日本福清同郷会」という、華僑会館のような事務所がある。華僑会館は横浜中華街にあるような出身地別の在外華僑によって組織された団体の事務所だが、福建省の省都である福州市の一地域にすぎない「福清」の団体がこの地に存在することは驚きだ。それだけ日本に福清の出身者が多いことを物語っている。
福清出身の新華僑は1980年代後半から90年代にかけて留学生として来日した。その後、ビザの有効期限切れとともに不法就労に陥るケースも少なくなかった。
なぜこのようなチェーン・マイグレーション(連鎖移民)が起こったかというと、日本から帰国した人たちによる地元での豪邸建設が多数あったからだという。それが福清の人たちの来日につながったのは言うまでもない。
さらに、福清が特徴的なのは、もともと日本の老華僑に福清出身が多かったという歴史的経緯もあることだ。そこには同郷人を受け入れる、経済的のみならず、ソフトなしくみがあっただろう。
もうひとつの黒龍江省ハルビン市方正県のケースは、日本の敗戦後、多くの日本人が残留孤児や残留婦人として満洲に残されたことに始まっている。1972年の日中国交正常化後、中国残留日本人の帰国が始まったが、それにともなう血縁や地縁を利用した方正県出身者が国際結婚や留学などで多数来日した。
実は、筆者の知り合いのガチ中華オーナーにも何人かの残留孤児2世がいて、彼らはその縁で来日し、飲食店を始めている。


