ヘルスケア

2025.08.06 15:00

「臓器チップとAI」で動物実験を廃止へ 年間4400億円以上コスト削減の可能性

Shutterstock.com

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米議会と食品医薬品局(FDA)は、製薬企業に対して、創薬研究における動物実験をテクノロジーに置き換えるよう促している。この取り組みには、かなりの時間を要するが、スタートアップから業界の大手までが、その実現に向けた動きを進めている。

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ミズーリ州カンザスシティーにあるチルドレンズ・マーシー病院の研究者たちが、驚くべきものを作り出した。それは「オルガノイド」と呼ばれるミニチュアの臓器で、顕微鏡でしか見えないほど小さな実際に動く心臓だ。この臓器は、患者自身の幹細胞からわずか数日で培養できるもので、医師たちはこれを使って、通常であれば数カ月かかるプロセスを省いて、その患者に最も適した薬を見つけ出している。

こうしたオルガノイドは未来の医薬品試験の中核となるもので、将来的に実験用動物を不要にする可能性がある。

動物実験が法律で義務付けられたのは1937年のことで、その当時広く使用されていた抗生物質の一つに有毒成分が混入し、100人以上が死亡する事故が起きたことがきっかけだった。しかし、それから100年近くが経過した今も、動物実験で安全とされた薬が有害な作用を示し、販売中止になる事例が続いている。

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そして今、政治家や科学者、起業家たちが、人体を用いた臨床試験を行う前に、より正確に薬を試験できる新たな方法を生み出そうとしている。彼らはこの取り組みによって人々の命を救い、数十億ドル規模の資金を節約しようとしている。

2022年、ある科学者グループが、動物実験でいずれも安全と判断された既知の薬剤化合物27種類を使って実験を行った。その中の一部は、重い有害作用を引き起こし、死亡例を伴って市場から撤退したものだった。

この実験では、これらの27種の化合物を、「オルガン・オン・ア・チップ」と呼ばれるテクノロジーを用いて改めて試験した。このチップは、小型の電子デバイス内に臓器の働きを再現する細胞の集まりを組み込んだ、オルガノイドに類似した「臓器チップ」だった。

その結果、研究チームは、肝臓の機能を再現したオルガン・オン・ア・チップが、人体に有害な化合物を正確に予測できることを突き止めた。この成果は、極めて高額な医薬品開発コストの大幅な削減につながる可能性を示している。臓器チップを用いたより精度の高い実験は、業界全体に年間30億ドル(約4430億円)以上のコスト削減効果をもたらす可能性があると、研究チームは結論づけた。

新薬候補の臨床試験の9割以上が失敗する

製薬業界が、動物実験の廃止に向かう背景には、安全面での課題に加え、コストの高さが挙げられる。新たな薬が市場に投じられる前には、20億ドル(約2950億円)以上の費用がかかることも多く、業界全体で1年間に3000億ドル(約44兆3000億円)近くのコストが研究開発に投じられている。しかし、このような巨額の出費にも関わらず、新薬候補の臨床試験の90%以上は失敗に終わっており、それが医薬品価格の高さにつながっている。

このような非効率につながる大きな要因が、研究の初期段階で行われる精度の低い高額な動物実験だ。研究者の間では「マウスならば、ほぼすべての病気を治せる」という冗談がよく交わされるほどだ。

「動物実験で、役立つ情報が得られていないことは明らかだ。なぜなら、臨床試験段階に進む薬はすべて動物試験を通過しているのだから」と、ロンドンを拠点とするMytosのCEOのアリ・アフシャーは語る。同社は、新薬の試験に用いるヒト細胞をシャーレ内で培養・再現するための新たな自動化技術を開発している。

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編集=上田裕資

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