細胞の培養は、従来は手作業で行われる場合が多く、結果のばらつきによって実験の再現性の確保が困難だった。このプロセスを自動化することで、より迅速かつ信頼性の高いデータが得られ、研究者はより重要な業務に時間を割くことができる。2016年創業のMytosは、累計約2900万ドル(約42億9000万円)を調達。動物モデルでは人間の反応を正確に再現できない疾患の治療薬の試験用の培養細胞を、製薬会社に提供している。
FDAは、動物実験の廃止に向けて、まずはモノクローナル抗体医薬品の試験にオルガノイドや細胞培養を活用することを提案している。モノクローナル抗体は、免疫システムの抗体を模倣するもので、がんやクローン病、新型コロナなどの治療に使用される薬剤だが、マウスでは効果が出にくく、よりヒトに近いサルなどの大型動物で試験を行う必要がある。しかしサルを用いた試験には、1匹あたり数万ドルものコストが必要で、それでもなおヒトでの効果を正確に予測できない場合が多い。 FDAは4月のガイダンスで、こうした新薬候補の安全性を立証するために、これらの代替法を使うよう製薬会社に提案した。その狙いは、実際のヒトデータに基づいて最も有望な候補を選別することにある。
バイデン政権が「動物実験の実施義務」を廃止
新薬開発における動物実験の廃止は、バイデン前大統領が2022年に「FDA近代化法2.0」に署名したことで、初めて可能になった。この法律は、FDAの新薬承認プロセスにおいて、コンピュータシミュレーションや「ミニ臓器」などを用いた試験で、当局が定める要件を満たせた場合に、動物実験の実施義務を廃止した。
また、市場にすでに存在する薬と生物学的に類似した医薬品についても、その義務をなくした。動物実験の削減に関する超党派の合意は、2期目のトランプ政権でも続いており、米国立衛生研究所(NIH)もこれらの新技術のための資金提供の優先や省庁間の連携を通じて、動物の使用を減らす取り組みを支援している。
しかし、新しい試験方法にはそれぞれに欠点がある。例えばオルガノイドには限界があると、動物実験への依存を減らすための5億ドル(約738億円)規模の取り組みを昨年開始した新薬の研究開発企業「チャールズ・リバー・ラボラトリーズ」の最高科学責任者ジュリー・フリアーソンは指摘する。
彼によるとオルガノイドは、薬が体の特定部位に及ぼす影響を把握することは可能だが、体全体に及ぼす影響を明らかにすることはできないという。例えば心臓のオルガノイドで治療薬を試験しても、それが肝臓や腎臓に与える影響は把握できない。また、オルガノイドは比較的寿命が短く、薬の長期的な影響を把握するのが難しい。
一方、サンフランシスコ拠点のスタートアップGordian Biotechnologyは、動物実験で得られる長期的かつ全身的なデータの利点を維持しながら、使用する動物の数を減らすことを目指している。同社が開発した「モザイク・スクリーニング」と呼ばれる技術では、薬剤化合物を単一の細胞に導入することで、1匹の動物内で複数の遺伝子治療を同時に評価できる。このプロセスでは特定細胞のDNAを改変しても、その細胞は体内の他の系と相互作用を続けるため、その薬が長期的にどのような影響を及ぼす可能性があるかを把握しやすくなる。 Gordian Biotechnologyは、この仕組みでコストを削減することで、老化に伴う疾患が人間と似ているウマのような、より高価な動物を実験に用いている。評価額が1億7000万ドル(約251億円)規模の同社は、この技術を用いて変形性関節症や脂肪肝疾患などの加齢関連疾患向けの遺伝子治療薬の開発を進めている。


