このサプライヤー密着モデルには、サプライヤーが使用する設備の設計や購入も含まれていた。これは、契約製造業者が顧客企業より優れた製造能力を持つと主張し、発注元が生産管理から手を引く標準的な契約製造とは大きく異なる。
「アップルは適正な価格を確保するために、サプライヤーに対して異例の統制を行った」とマギーは説明する。「アップルは作業員の賃金や寮の費用から、材料表や機械の費用に至るまで、サプライヤーの運営コストのあらゆる詳細にアクセスすることを求めた」。アップルはサプライヤーに代わって部品を調達することもあった。「実際には、アップルのほうがサプライヤー自身よりもその運営コストを詳しく把握していることが多かったのだ」
フォックスコンが中国での生産に集中すると、その周辺にサプライヤーの産業クラスターが形成された。アップルの技術者は、こうしたサプライヤー──さまざまな部品で競合するサプライヤーも含む──に対して、大規模で品質の高い生産を行う方法を教えた。
中国政府による国内製造の支援
フォックスコンが中国での製造に集中した理由は、中国の労働者の賃金が低いからだけではない。中国政府が輸出主導の生産を多方面で補助し、促進したことも大きな要因だ。
米国や欧州で新工場を建設しようとすると、必要な建築許可の取得やその他の規制への対応に何年もかかることがある。しかし中国では、当局が数カ月でこれを実現させた。中国はフォックスコンや一部のサプライヤーに工場用地を無償で提供し、道路などのインフラを彼らの負担なしで整備した。初期には、フォックスコンのような企業のために新しい工作機械を政府が購入したことさえあった。
各地には必要な労働者が不足していたが、中国は国内の貧しい地域から労働者を動員することを支援した。労働時間や残業、環境規制に関するルールは存在するものの、中国はこうした厄介な規制を厳格に適用するよりも、高度な製造基盤の構築を優先した。
アップルは中国に取り込まれた
マギーは、アップルが中国での生産から脱却するのは極めて難しいと結論づける。必要な技術を持つサプライヤーは他地域には存在せず、中国政府が自国のサプライヤーに国外で生産することを許可する保証もない。
中国政府は多様化の試みを痛みをともなうものにすることもできる。北京はこの点を示すために他企業に対してさまざまな戦術を用いてきた。電力供給が突然1日数時間に制限されることがある。原材料が工場に届く前に停止されることもある。
マギーは「今後5年間でアップルが中国依存を有意に低減する方法はない。それは不可能だ」と断じている。


