今週、人工知能(AI)競争の様相がいかに変化しているかを示す鮮烈な例が現れた。
それは誰もが知るAIモデルと、多くのパソコンユーザーにとって馴染み深い事務用テクノロジーが絡むものだ。すなわち、OpenAIのChatGPTとマイクロソフトのExcelである。
Excelはマイクロソフトの伝統的なOfficeスイートの一部であり、長きにわたって基礎的なソフトウェア市場を支配してきた。多数の初級事務職員が、この代表的なスプレッドシートソフトを駆使して仕事をこなしてきたはずだ。マイクロソフトはこうした市場分野を支配しつつ、Windowsベースのグラフィカルユーザーインターフェースを先駆けて開拓することでブランドを築いてきた。だが、それは昔の話だ。
現在、ChatGPTはスプレッドシート自体の利用に関わる新しい市場の一角を占めつつあり、本質的には、多くの初級事務職員を不要にしてしまう可能性がある。それは、既存の能力に加えて、このモデルが人間のように高度な認知能力でExcelを扱えるようになったからだ。
データとデータ処理
新しいChatGPTの能力を、以前の段階と比較してみよう。ChatGPTの開発初期には、この技術はデータの集約に役立っていた。人間はそのデータをスプレッドシートに入力したり、さまざまな用途に利用したりしていた。
やがて、ChatGPTがExcelの基本関数や数式を生成できるようになった。乗算や合計など単純計算の式をたずねると、即座に正しい書式で提示してくれる。ChatGPT自身が示した例を引用しよう。
・従来の方法:=IF(AND(A2>100,B2="Yes"),"Approve","Reject") を自力で入力する必要があった
・ChatGPTの方法:「列Aが100より大きく、列Bが“Yes”ならApproveと表示して」と指示すればよい
これは、プログラマーやアナリストがAIに仕事を任せられると気付いた「バイブコーディング」(Vibe Coding)革命の一端だった。人手によるコーディングは過去のものとなり、ChatGPTなどのモデルに頼めば済むようになった。そしてこのようなプログラミングの民主化が進む中に、まったく新しい能力が登場したのだ。



