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2025.08.02 09:00

時価総額10兆円超、デザインソフトFigmaがアドビによる買収頓挫を乗り越え復活のIPO

Figmaの共同創業者でCEOのディラン・フィールド(Photo by Kimberly White/Getty Images for TechCrunch)

Figmaの共同創業者でCEOのディラン・フィールド(Photo by Kimberly White/Getty Images for TechCrunch)

かつて、反トラスト(独占禁止)当局の圧力によってAdobe(アドビ)による200億ドル(約3兆円)での買収計画を頓挫させられた米デザインスタートアップ「Figma(フィグマ)」が7月31日、ニューヨーク証券取引所で新規株式公開(IPO)を果たした。この上場により、同社の時価総額は完全希薄化ベースで700億ドル(約10兆5000億円)近くに達した。

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2024年1月、サンフランシスコに本拠を置くFigmaの従業員らがクリスマス休暇から戻ったとき、待っていたのは残念なニュースだった。15カ月間も規制当局の承認待ち状態にあったアドビによる同社の買収は、反トラスト上の懸念から頓挫した。これを受け、Figmaの共同創業者でCEOのディラン・フィールドは、複数人がリアルタイムで共同編集できる「デザイン版グーグルドキュメント」を目指すスタートアップのリセットボタンを押した。

Figmaは、社内の評価額を100億ドル(約1兆5000億円)に引き下げ、従業員たちに3カ月の退職手当つきの希望退職パッケージを提示した。しかし1300人の従業員のうち、この制度に応募したのはわずか約4%にとどまった。

関係者や投資家によれば、この動きは同社を安定させ、独立したスタートアップとして長期的な未来を築くための布石だったという。「その結果、きわめて意欲的な人々が残って、新しい製品を提供するために休むことなく働き続けることになった」と、ベンチャーキャピタル(VC)大手クライナー・パーキンスのパートナーでFigmaの投資家、マムーン・ハミッドは語る。

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そして、その後の約18カ月で、フィールドの賭けは実を結んだ。Figmaとその投資家は31日、ストックオプションやその他の株式報酬を含む完全希薄化ベースで190億ドル(約2兆8600億円)超の評価額を前提に株式を売り出し、12億ドル(約1810億円)を調達する予定だった。このテックIPOは、今年のこのセクターで5本の指に入る規模と見込まれていた。

上場初日、フィグマの株価はIPOの公開価格の1株33ドルを大きく上回る115.50ドルで取引を終え、3倍超の上昇となった。これにより、フィールドの資産は推定64億ドル(約9640億円)に膨らみ、共同創業者エバン・ウォレスも推定31億ドル(約4670億円)の資産を持つビリオネアとなった。

33歳が手にする「巨額の報酬パッケージ」

今回の上場における最大の勝者の一人は、フィールド自身だ。彼の持ち分の価値は公募価格ベースで推定18億ドル(約2710億円)だったが、これは将来得られる可能性のある巨額の報酬のほんの入り口にすぎない。現在33歳の彼は、2021年と2025年に付与された長期インセンティブプランの条件を満たした場合、公募価格ベースで13億ドル相当(税引前・約1960億円)の株式を追加で受け取ることになる。その条件とは、今後10年間Figmaに在籍し続けることと、株価を公募価格の4倍にあたる130ドルまで引き上げることだ(アドビもこれと同様の巨額報酬パッケージを彼に提示していた)。その制限付き株式の潜在的価値は、31日に3倍以上に跳ね上がった。

この報酬構造は、イーロン・マスクがテスラから得ようとした560億ドル(約8兆4300億円)規模の「ムーンショット」級の取り分のような、高額かつ野心的な長期インセンティブプランが、業界のトレンドとなったことを反映している。ただし、デラウェア州の裁判所は2024年1月、テスラのこの報酬の付与プロセスがマスクの取締役会の支配構造によって公正性を欠いていたとして、無効と判断した(マスクはこの判決を不服として控訴中)。

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編集=上田裕資

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