デザイン分野に革命を起こしたFigma
Figmaはいまも熱狂的な支持層を抱えており、サンフランシスコとロンドンで今年開いた年次イベント「Config」には、数千人が詰めかけた。そして、このイベントの看板スピーカーを務めたのが、ほかでもない共同創業者のフィールドだった。
2012年にブラウン大学のコンピューターサイエンス課程を中退した彼は、ピーター・ティールの「ティール・フェローシップ」を受けて、大学時代の同級生ウォレスとともに、ドローン向けソフトやミーム作成ツールなどいくつもの事業アイデアに取り組んだ後、アドビの画像編集ソフト、フォトショップの競合ツール開発に乗り出した。ブラウザ上で動作するFigmaのテスト版が登場するまでには数年を要したが、2015年に公開されると、瞬く間にデザイナーやマイクロソフトのようなハイテク大手の関係者の間で人気を集めた。この成功により、Figmaの評価額は、最初の製品投入からわずか6年で100億ドル(約1兆5000億円)に到達し、シリコンバレーでも最も注目されるスタートアップの一つとなった。
同社のIPOは、Figmaに出資してきたVCにとっても大きな勝利となった。インデックスとグレイロック、クライナー・パーキンスという3つの名門VCは、IPOの公募価格ベースで合計約60億ドル(約9030億円)相当の株式を保有しており、初日の終値ベースでその価値にさらに数十億ドルが上積みされた。
FigmaのS-1資料に、筆頭株主として記載されているインデックスの持ち分は、公開価格ベースで約21億ドル(約3160億円)に膨らんだ。同社のパートナーで、フォーブスの「ミダス・リスト」に選ばれたダニー・ライマーは、フィールドがまだ19歳だった当時のシードラウンドでFigmaに投資していた。
AIブームが脅威になる可能性
さらに、セコイア・キャピタルやシリコンバレーの資産運用会社、アイコニックなど、初期からの投資家に大きな利益をもたらしたFigmaのIPOは、長らく停滞していたIPO市場の活性化に道を開く可能性がある。ここ最近のテック業界では、評価額230億ドル(約3兆4600億円)のコアウィーブの上場や、同120億ドル(約1兆8000億円)のチャイムの上場に加え、相次ぐ買収劇が、VCにとって異例かつ痛手だった「エグジット不況」を打破しつつある。
また、Figmaの大口投資家の一部は今年、ほかの企業のエグジットからの利益も見込んでいる。インデックスは、グーグルが320億ドル(約4兆8200億円)を投じるWizの買収や、メタによる140億ドル(約2兆1000億円)規模のScale AIの買収、さらに50億ドル(約7530億円)規模のトルコのゲーム開発会社Dreamの買収案件からも利益を得る見込みだ。クライナー・パーキンスも先日、半導体メーカーAmbiqをニューヨーク証券取引所に上場させたほか、グーグルがコード生成スタートアップWindsurfの経営陣に24億ドル(約3610億円)を支払った案件でも利益を上げている。
ただし、こうした一連の動きを後押ししてきたAIブームは、Figmaにとって脅威になり得るものだ。LovableやReplit、StackBlitzといった新興企業は、巨額の資金調達を行い、売上を急拡大させている。彼らは、簡単なテキストを入力するだけで、Figmaがその制作によく用いられるようなプロトタイプやスケッチを超えた、完全に動作するウェブサイトやアプリを生成できるAIツールを開発している。


