フィールドはFigmaを上場企業にしたものの、2013年に自身が共同創業したこのスタートアップの巨大な支配権を握っている。IPOに含まれた条項により、フィールドは共同創業者エバン・ウォレスの株式についても議決権を行使できる(IPO価格で約9億ドルだったウォレスの持ち株の価値は、初日の終値で31億ドルに達した)。フィールドとウォレスは、他の投資家が保有するクラスA株の15倍の議決権を持つクラスB株の99%を保有している。その結果、フォーブスの「30アンダー30」に選ばれた経歴を持つフィールドは、ブラウン大学の同級生であるウォレスの株式に紐づく約26%を含めて、Figmaの議決権の約74%を掌握している。
ニュースサイトAxiosによれば、ウォレスは今年6月、ホームレス問題に取り組む非営利団体「マリン・コミュニティ財団」にFigmaの保有株の3分の1を寄付していたという。この寄付がなければ、彼はさらに多くの資産を手にしていたはずだ。かつてFigmaの最高技術責任者(CTO)を務めたウォレスは、2021年に会社を去っていた。フィールドやウォレス、Figmaはいずれもコメントを控えた。
2023年、買収計画の頓挫からの復活
今回の上場は、2023年のアドビによる200億ドル規模の買収を頓挫させたFigmaが、見事に復活を遂げたことを示す出来事となった。当時、アドビのシャントヌ・ナラヤンCEOは、この買収がフォトショップなどのデザインソフトウェアを擁する同社を根底から変革し得る取引だと評していた。しかし、アドビの投資家は、Figmaの直近の評価額の2倍、そして当時の年間売上高4億ドル(約602億円)の約50倍という巨額の買収に難色を示した。さらにこの取引をめぐっては、米国や英国、欧州の反トラスト当局に加え、アドビの高額なソフトウェアに反発するFigmaファンの間からも懸念の声が上がっていた。
2022年9月に初めて発表されたこの買収計画は、英国の競争当局である競争・市場庁(CMA)が「デザインソフト市場での競争を脅かす可能性がある」と警告したことを受け、最終的に2023年12月末に白紙撤回された。Figmaはアドビから10億ドル(約1500億円)を違約金として受け取ったが、それでも同社と共同創業者のフィールドは厳しい再出発を迫られた。
「買収計画の頓挫は、彼らにとってつらいことだったが、ディランはそれを受け止めて、新しい計画に乗り出した」と、Figmaの投資家であるグレイロック・パートナーズのパートナー、ジョン・リリーは、当時を振り返る。「希望退職者を募るというのは、一般的に経営者が恐れる行為だが、ディランにとってはむしろとても健全なことだった」
また、Figmaの創業者がアドビや米欧の規制当局との交渉に追われている間も、同社のチームは積極的に仕事を進めていた。Figmaは、その年の夏前に開発者がデザインをコードに変換することを支援するツールを発表し、その後の1年間で新しいデザインツールやAIツールを次々と投入した。
これを受け、アドビによる買収が発表されて以降に、Figmaの売上はほぼ倍増した。そして、昨年の売上高が7億4900万ドル(約1130億円)に達した同社の成長ペースは加速しており、2025年第1四半期の売上高も、前年同期比46%増の2億2800万ドル(約343億円)を記録した。しかし、それでもFigmaはまだ黒字化していない。同社は昨年7億3200万ドル(約1100億円)の損失を計上したが、その主な要因は、従業員への8億8900万ドル(約1340億円)規模の株式報酬だった。


