“このまま”では終わらない。HVC KYOTOは11年目へ
まだ手元にないデータを集めなくてはならなかったり、コンセプトから見直しを迫られたりと、アドバイザーからの意見の内容によって、降壇するファイナリストの顔色はさまざまだった。
こうしたピッチでのうまくいかなさや失敗を「学びに変えろ」と基調講演で力強く語っていたのが、スタンフォード大のモシーローゼン教授。KSAC主催のワークショップ「BIE Workshop」の枠組みである、ヘルスケア分野に特化した橋渡し研究支援・アクセラレーションプログラム「SPARK」を約20年前に開発した生みの親で、自身の経験をもとにエールを贈ったのだった。
「日本では失敗やリスクを恐れる文化があるかもしれません。資金も不足しているかもしれませんが、諦めてはならないのです。SPARKを始めた20年前は、『ビジネスは産業界の仕事だ。あなた方は研究をしていればいい』と言われましたが、私はこれに抵抗しました。失敗だなと思うことは“成功なんだ”と捉えていいくらいです。諦めなかった結果、生まれたSPARKは、今では40カ国ほどに広がり、素晴らしい仕事を生み出しています」(モシーローゼン教授)
モシーローゼン教授と同じスタンフォード大学で教鞭をとりながら、数々の医療系スタートアップの開発を支援してきた池野文昭も講演。軽快な話ぶりで、創業準備段階からイグジット戦略を立てておく重要性を説いた。今年創業100周年を迎えた中外製薬の稲村誠一 事業開発部 サーチ&エバリュエーション グループ長も、壇上にたった起業家や研究者と同じように使命感を燃やし続けていると、登壇者を励ました。
協賛企業の東急不動産や後援の厚生労働省からのインフォメーションセッションなどを終えた後、小栁や10年間アドバイザーを務めているジョンソンエンドジョンソンの楠淳シニアディレクター、後援機関や厚生労働省の担当者ら、HVCを支える面々による座談会も開かれた。その中で、登壇者のひとりがこう呟く。
「関西は、このままいけ」
座談会は京阪神での連帯を強めていこうと総括され、HVC KYOTOは盛況のうちに閉幕した。
節目のカンファレンスを終えたHVC KYOTO。京阪神での連携強化を通じて、日本のヘルスケア産業におけるイノベーションハブとなるには、単に「このまま」というだけには止まらないはずだ。HVC KYOTOの今後に注目したい。
【受賞者一覧(発表順)】
JETRO賞
髙松利寛 (産業技術総合研究所 AIST 主任研究員)
事業テーマ:深部組織可視化のための近赤外分光腹腔鏡システム
KSII賞
タン・ホンハオ Tang Honghao(NODAS CTO)
事業テーマ: アルツハイマー病早期診断のためのポータブル眼底カメラ(ハイパースペクトルイメージング)
INPIT賞
村上達也(富山県立大学 / 京都大学 教授/客員教授 )
事業テーマ: 血管新生加齢黄斑変性のための次世代光線力学療法剤の開発
IT-Farm賞
東急不動産賞
宮脇一嘉(Physiologas Technologies CEO)
事業テーマ: 給水不要の血液透析システム
ATR賞
ガジャナン・レヴァンカー Gajanan Revankar(大阪大学医学部附属病院 医療イノベーション部 CGH 特任助教
事業テーマ: 患者中心の認知症早期識別AIアプリ開発
イノベーションデザイン賞
平尾彰浩(Surg Storage CEO)
事業テーマ: データで医療を改革:外科AIの未来
KRP賞
ジョウ・ウェイ Zhou Wei(Sharkey Technologies CEO候補)
事業テーマ: サメ由来の世界一小さい抗体がもたらす、次世代抗体の革命
京都市長賞
舟越 俊介 (京都大学 iPS細胞研究所 プロジェクト助教)
事業テーマ: ヒトiPSC由来3D成熟心臓組織を用いた創薬プラットフォーム事業の開発


