中国はチベット自治区の高地において、デジタルインフラの再構築に向けた一手を打った。標高約3600メートル、ヤルンツァンポ川沿いのシャンナン市に設置されたスーパーコンピューティングセンター「Yajiang-1(ヤジアン・ワン)」は、国家戦略「東数西算(Eastern Data, Western Computing)」に基づく初の本格的な高原AI拠点となる。
高地環境を活かしたAI訓練
「Yajiang-1」が注目される理由のひとつは、過酷な自然環境を利点に変える設計思想にある。具体的には以下の要素が、エネルギー効率と持続可能性の鍵を握る。
・日照時間の長さを活かした太陽光発電
・サーバー冷却を容易にする低温環境
・廃熱を再利用する熱回収システム
この組み合わせにより、大量の電力を消費するAIトレーニングにおいて、環境負荷と運用コストの双方を大幅に低減することが可能になる。
凄まじい処理能力
初期段階で稼働しているのは、256台を超える高性能サーバー。総計で2000ペタフロップス(1秒間に2千京回の計算)という処理能力を誇る。これは、国内でも有数のAIトレーニング拠点となるポテンシャルを秘めており、中国のAI技術基盤における“西の柱”としての役割を担う。
このプロジェクトは、チベットヤルンツァンポ計算技術公司と地元政府の連携によって進められており、高原地域におけるデジタル経済の成長エンジンと位置付けられている。
自動運転から環境モニタリングまで
同社の韓双双(ハン・シュアンシュアン)総経理によれば、「Yajiang-1」は以下の分野での技術ブレークスルーを狙っている:
・自動運転
・スマートヘルスケア
・AIトレーニング
・高原生態系のモニタリング
すでに複数の企業・研究機関とパートナーシップが構築されており、今後は応用フェーズへの展開が本格化する見通しだ。
「東数西算」戦略とは何か
このプロジェクトの背景には、2022年に打ち出された「東数西算」構想がある。東部の人口集中地域で逼迫するリアルタイム計算リソースを、西部の資源豊富な地域へと分散させる国家的データ戦略だ。西部に設置された計算拠点は、オフライン処理や非緊急データ分析を担当し、東部のリアルタイム処理負荷を軽減する役割を担う。
持続可能な計算インフラのプロトタイプ
Yajiang-1は、自然環境とグリーンテクノロジーを組み合わせた新世代のスーパーコンピューティングセンターの試金石である。高地という特殊なロケーションを逆に武器とし、持続可能性と演算能力の両立を図る中国の次世代インフラ構想を象徴している。
(この記事は、英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」7月1日の記事から転載したものです)



