世界中のデジタルノマド700人以上が集った「バンスコ・ノマド・フェス」(BNF)からのインサイトを中心に、ノマド・ライフスタイルの業界動向を解説した前編に続き、後編ではデジタルノマドの未来について考察を深める。
デジタルノマド・ビザ、真のニーズに応える制度とは?
そもそも“デジタルノマド”という言葉が誕生したのは、今から約30年前の1997年のこと。半導体産業の発展に貢献した牧本次生(まきもと・つぎお)と英国人編集者デイヴィッド・マナーズ(David Manners)の共著『デジタル・ノマド』が起源だとされている。
そこからノートパソコン、インターネット、Wi-Fiの普及により、パソコン作業を中心とする仕事の選択肢が広がり、リモートワークが定着。さらに、新型コロナウイルスのパンデミックによって在宅勤務が一般化したことに加え、観光収入を失った各国政府が外国人誘致策として“デジタルノマド・ビザ”を導入したことで、「デジタルノマド」という単語が広く知られるようになった。
日本政府も2024年3月31日にデジタルノマドとその配偶者などを対象にした特定ビザを導入。外国法人に所属しリモートワークを行う外国人に対し、最大6カ月の在留資格を認める制度だ。主な要件は、査証免除かつ租税条約締結国・地域の国籍を持ち、申請人個人の年収が1000万円以上であること。対象国・地域には北米、欧州各国のほか、南米・中東の一部、インドネシア、シンガポール、マレーシア、韓国、香港、台湾などが含まれるが、アフリカ諸国は一つも対象に含まれていない。
2024年の推計では世界に約4000万人のデジタルノマドが存在するとされているが、実はその定義については研究者の間でも統一が取れておらず、正確な人数の把握は難しい。一方、法制度の整備を進めるには、誘致のターゲット層を明確化する必要がある。
移民およびデジタルノマド研究の専門家、フィンランド出身のカイス・コスケラ(Kaisu Koskela, PhD)は、デジタルノマドとは複数の国を移動しながら暮らすという点が特徴であり、季節などに応じて外国に滞在し、自国に戻るワーケーション型の長期観光客(ワーケーショナー)や、外国に拠点を移して働く移民とは区別して考えるべきだと指摘する。
日本の観光庁の報告書などでは、デジタルノマドと国際的なリモートワーカーという表現が同義で使われているが、ワーケーショナーや移民(あるいは移住を検討しているリモートワーカー)と違って、デジタルノマドは一つの訪問国に対するこだわりが薄いという点を理解する必要がある。
その上で、各国が設けるデジタルノマド・ビザ制度について、その多くが短期的な経済効果を狙った「観光ビザ寄り」のもので、デジタルノマドのニーズには十分に応えていないと、コスケラは分析。日本の制度についても「マーケティング面では成功した」と評価しつつも、対象となる国籍(パスポート)が限られていること、6カ月の滞在許可を得るための申請書類が煩雑であること、最低収入要件が高すぎることなどを挙げ、実用性の低さを指摘する。



