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2025.08.02 14:15

デジタルノマドは次どこへ? 制度設計と未来の暮らし方へのヒント

「どこでも同じようなモノやサービスが流通し、世界の都市が均一化していく中で、田舎には多様な文化が残っている」とバルベドは語る。一般的には都市がデジタルノマドに人気になりがちだが、旅行経験が豊富なノマドたちは、より地域に根ざした、オーセンティックな体験を求めているという。田舎は自然との距離も近く、ウェルビーイングの向上にもつながるというメリットがある。

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ルーラルでは、滞在先の住居、コワーキングスペース、地域に暮らすアクティブな“グランマ”たちとの料理体験やボランティア活動といったアクティビティ、コンシェルジュサービスなどを含んだ、2週間以上の滞在プログラムを提供。バス・トイレ付きの個室の料金は、2週間で1090ユーロ(約18万円)、1カ月滞在の場合は1690ユーロ(約29万円)に設定されている。

一定期間内の滞在者数は5〜10人程度に絞り、ノマドと地域住民との関係性を深めるとともに、地域への負担を抑えている。同時に、18年にわたって村長を務め、サステナブルな地域作りに注力してきた行政トップを筆頭に、約300人の村の住民全体がルーラルの取り組みに参画し、デジタルノマドを歓迎する体制が整っていると、バルベドは説明する。

ルーラルは、BBCやユーロニュースといったグローバルメディアにも取り上げられ、注目を集めつつある。SEO対策やSNSにも注力する一方、コワーキングスペースとの連携を通じて認知を拡大。口コミも徐々に広がり、着実に支持を集めている。

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デジタルノマドのためのユートピア構想

山奥にデジタルノマドを呼び込もうというもう一つの試みが、BNFを立ち上げた起業家、ツァイトラーが取り組む「コリビング・セムコヴォ」。彼は現在、BNFの経営からは完全に退いているが、ブルガリアを拠点に引き続きデジタルノマド支援事業に取り組む。

その最新プロジェクトは、バンスコからさらに車で約45分の山奥に位置する旧ソ連時代に建てられた(当時としては)ハイグレードなホテルを買収し、225室をデジタルノマド向けのアパート兼コリビング空間として改装するという大掛かりなもの。地域行政もこの取り組みを歓迎し、道路などのインフラ整備に注力している。

BNF期間中には、ツァイトラー自身による「コリビング・セムコヴォ」視察ツアーが開催された。アパートの85%はすでに売却済みで、その約8割がターゲット層である世界各国のデジタルノマド、残り2割がブルガリア人だという。

たとえば、25平米の部屋は、改装費込みで4万ユーロ(約680万円)で購入可能。コリビング空間は、全入居者が共同オーナーとして費用を拠出し、維持・管理していく仕組みだ。各部屋の購入者による部屋の賃貸や売却は自由とされている。

一部はまだ改装中だが、7月1日には第一陣の入居者が生活を開始した。筆者が出会った住人たちは、いずれもデジタルノマドのライフスタイルを継続しながら、1年のうち数カ月をこのセムコヴォで過ごす予定だという。

たとえば、ビジネス・コンサルティングやライフコーチングを手がけるブラジル出身の単身女性は、オンラインコースの執筆やハイキングをしながら滞在すると語る。ベルギー出身のカップルは、ヨーロッパでの在住許可を低コストで維持する手段としてこのアパートを購入した。また、オランダ出身の男性は、パートナーと共に旅を続けながらも欧州内の拠点を探していたところ、このアパートを偶然見つけ、2室を即決購入。1室は不動産投資として賃貸用に活用するとのことだ。

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