自身もノマドを実践しながら研究を行うコスケラだが、「移動を続けながら生活し、働くというデジタルノマドのライフスタイルを長期的に維持できる人は、ごく一部に限られる」との見解を示す。そして今後も増加が見込まれる国際的なリモートワーカーは、気候や生活環境の良さを求めて一時的に滞在するワーケーショナーや、より好条件の国へ移住する人々だと予測する。
そのため制度設計においては、たとえばニュージーランドのように、既存の短期訪問ビザ(あるいはビザ免除制度)を拡張し、リモートワーク労働を許可するという方法が、もっとも簡便で現実的だという。一般的に”観光ビザ”では「働くこと」が許可されておらず、デジタルノマドの存在はグレーゾーンな領域で、企業も外国でのリモートワークを公認しづらいという現状がある。
また、3カ月を超える滞在に関してはその期間に応じた税制を導入するというのも一案だ。観光の枠組みでデジタルノマドを誘客し、短期的な経済効果を狙う日本などは、こうした制度の導入が有効となるかもしれない。デジタルノマドには一つの国に定住するという考えはなくとも、滞在地域や社会に貢献したい、あるいは還元したいという考えを持っているからだ。
同時に、長期的な経済効果や人材確保を狙うには、スペインやポルトガルが導入しているように、一定の条件を満たせば中長期の在留許可に移行できる制度を設けることも、有効な選択肢となる。しかし、そのためにはやはり魅力的なコミュニティがあることが重要だ。
「魅力的なコミュニティ」は一概に定義し難いが、デジタルノマド界隈においては事実上の共通言語である英語が通じにくいことは、日本における課題のひとつ。地域活性化の観点からは、地方への誘客が重要だが、都市を離れるほど言語の壁が高くなるというジレンマもある。
デジタルノマドとともに取り組む、地方創生の可能性
外国からのデジタルノマドを地方誘致する先行事例の一つが、スペインの非営利団体「ルーラル(Rooral)」による、地方活性化を目的としたコリビング(共同生活)型の滞在プログラムだ。「ルーラル」は、英語で田舎を意味する「rural」にちなんだ名称で、その名の通り、田舎の村を対象地域としてノマドの受け入れを促進している。
今年のBNFの登壇者の一人でもあった共同創業者のホアン・バルベド(Juan Barbed)は、かつてデジタルノマド的なライフスタイルを送っていたが、祖母の死をきっかけに故郷の田舎へと戻った。そこで、地域活性化の一環としてデジタルノマドを呼び込みたいと考え、スペイン南部アンダルシア州マラガにある山間の村・ベナラバ(Benarrabá)を拠点に、ルーラルを立ち上げた。


