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2025.07.26 08:00

ビル・ゲイツの「AIが医師に置き換わる」という予測は間違っている、現役医師が解説

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AIの未来を左右するもの

AIの性能は急速に進化しているが、臨床現場での導入状況にはばらつきがあり、特に業務の流れがAIの統合に最適化されていない現場では、その傾向が強い。

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たとえば、診療記録を自動で作成する「アンビエントAI」の活用については、非常に役立つと感じる医師もいれば、さまざまな理由で早期に使用をやめてしまう医師もいる。AIが作成する記録の内容が自分の専門分野に合わなかったり、修正に手間がかかりすぎたりする場合もある。また、AIを業務の流れにうまく組み込めなかったり、音声入力のような既存のやり方で十分だと感じたりすることもある。

実際、AIが期待されたほどの成果を出せていない分野もある。たとえば、入院患者の敗血症を見つけ出す場面では、アルゴリズムが出す警告が医師に却下されたり無視されたりすることが多く、複雑で変化の激しい状況では人間の判断がいまだに不可欠であることを示している。

AIに関する規制もまだ整備が整っていない。米食品医薬品局(FDA)の「デジタルヘルス予備認証制度」や、欧州連合の「AI法」は、規制の明確化をもたらそうとしているが、プライバシーやバイアス、法的責任といった重要な問題には、いまだ大きな疑問が残る。たとえばAIががんの症状を見逃した場合、その責任を誰が負うのかという問題がある。こうした不確実性のために、多くの医療機関はAIツールの全面導入に慎重になっている。

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医療におけるAIの可能性を最大化するには?

ここでまず最優先すべきは、AIを用いて現実の医療の課題を解決することだ。つまり、判断を改善する、あるいは業務を効率化するという明確な目的に沿って進める必要がある。

救急医療での好例が、AIツール「Queen of Hearts」だ。これは、心電図(EKG)のわずかな異常を読み取って、患者が心臓発作を起こしている可能性を示すのに役立つ。このソフトウェアはFDAから「画期的機器」の指定を受けており、数カ月以内に使用許可が下りる可能性がある。

もうひとつの課題は、AIの進化スピードに医療教育が追いついていないことだ。スタンフォード大学やハーバード大学など一部の医科大学では、すでにAIをカリキュラムに組み込んでいるが、現場で働く多くの医師や看護師は、まだこうしたツールと効果的に連携するための訓練を受けていない。この状況を変えていく必要がある。

結局のところ、将来的にAIは医師が担っている認知的・事務的な負担の一部を引き受け、彼らが人間にしかできない仕事──患者との対話や共感、そして手を使った処置──に集中できるよう支援する存在となるだろう。そして重要なのは、医師がAIを監督し、その出力を正しく解釈し、連携していくためのスキルを身につけることだ。

つまり、ビル・ゲイツには悪いが、医療におけるAIの未来は『ベイマックス』のようなロボット医師ではない。人間の医師が賢いツールを使ってより質の高い医療を提供する、「よりスマートな医療」になるだろう。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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