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2025.07.22 17:30

AIデータセンター需要で韓国の「変圧器メーカー」創業者がビリオネアに

Shutterstock.com

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人工知能(AI)ブームによる電力需要の急増を受け、韓国のほぼ無名の変圧器メーカー、サンイル電機(Sanil Electric)の株価は、4月上旬の急落以降に約110%上昇した。これを受け、同社の創業者兼CEOのパク・ドンソク(64)の保有資産は10億ドル(約1470億円。1ドル=147円換算)を突破し、韓国で最新のビリオネアとなった。

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妻とともにサンイル電機の株式の55%を保有するパクの保有資産は、7月18日の市場の終値ベースで、約12億ドル(約1764億円)に達した。

ソウル南部の安山(アンサン)に拠点を置く同社は、発電所やエネルギー貯蔵施設で使用される変圧器の製造元として知られている。同社は、2024年の売上高が前年比56%増の3340億ウォン(約367億円。1ウォン=0.11円換算)に達し、純利益も前年の2倍以上の840億ウォン(約92億円)に増えたと報告している。

サンイル電機は、5月の四半期報告書で「電気自動車(EV)、AIの普及、データセンター向け需要の高まり」を受けて、電力需要が今後も拡大する見通しだと述べていた。同社は、Business Research Insightsのデータを引用して、2021年に260億ドル(約3.8兆円)だった世界の変圧器市場が、2031年には480億ドル(約7.5兆円)規模に成長する見通しだと述べていた。

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サンイル電機の売上の60%以上は米国からのもので、1月にはGEベルノバから1140万ドル(約17億円)以上の変圧器を受注していた。未来アセット証券のアナリスト、チョ・ユンジュは3月のリサーチノートで、「米国の主要市場では、政府が大規模な電力需要を促進する複数の政策を導入しており、送電網の近代化に向けた投資は今後も続く見通しだ」と述べていた。

またチョは、サンイル電機がGEベルノバやTMEIC(旧・東芝三菱電機産業システム)などの既存顧客に加え、カリフォルニアの公益事業者のPG&E、ノースカロライナ州の電力機関デューク・エナジーなどとも契約を結び、米国市場で顧客基盤を広げていると指摘した。彼は、サンイル電機の強みの1つが、「大手公益企業の多様な技術要件に柔軟に対応できる点にあり、200種類を超える設計仕様の変圧器を提供している」と述べて、新規顧客の獲得と既存顧客からの追加受注の両方によって「持続的な受注拡大が見込まれる」と指摘していた。

データセンターの拡張を積極的に進める世界のハイテク大手

世界のハイテク大手も、AI関連の取り組みを支えるデータセンターの拡張を積極的に進めている。メタのマーク・ザッカーバーグは14日、同社が業界初の「スーパークラスター」と称するマルチギガワット規模のデータセンター群を構築すると発表した。

また、世界一の富豪であるイーロン・マスクは、昨年9月に彼のAI企業の「xAI」がテネシー州メンフィスに10万基のエヌビディアのH100チップを収容する巨大データセンター施設を完成させたと発表した。「AIの演算能力は6カ月ごとに10倍のペースで増加している模様だ」とマスクは昨年のカンファレンスで述べていた。「そうなると、次に起こる供給不足は電圧を下げるための変圧器だと簡単に予測できる。これらのチップに電力を供給しなければならないのだ。100キロボルトから300キロボルトで送電された電気を6ボルトまで下げる必要があるとしたら、それだけ多段階の降圧が必要になる」と彼は指摘した。

パクは、韓国の電気機器メーカー、ユイル電気での勤務を経て1994年にサンイル電機を創業した。彼は、ソウルの高麗大学で電気工学の修士号を取得し、韓国工科大学で学士号を取得した。パクは、昨年7月にサンイル電機を上場させ、2660億ウォン(約293億円)を調達していた。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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