コメ問題で日本中が揺れた2025年。しかし、福岡県久留米市に本店がある筑邦銀行は、銀行員たちが農家と一緒にコメをつくるだけでなく、独自の「出口戦略」を築いていた。コメはつくれてもカネにできない日本の農業を変えようと挑戦する。「筑邦銀行アグリチーム」に話を聞いた。
利益がでない失敗で考えた「出口戦略」
「我々の役割は融資を増やすことではない。日本の農業を変えることだ」と主張したのは、筑邦銀行会長の佐藤清一郎だ。2009年から2024年まで佐藤が頭取を務めていた15年間にわたり取り組んだ地域支援の一つが、地域農業の産業化だった。
筑邦銀行の本店がある久留米市は、福岡県内で農業生産高がトップの農業都市だ。もともとアグリビジネスローンを商品として打ち出していたこともあり、佐藤は2020年に既存顧客を中心とした「ちくぎんアグリネットワーク」を設立。地域の農業法人や農業関連事業者などが連携する農業支援プラットフォームを立ち上げ、農業法人の設立や資金調達の支援、六次産業化を積極的に推し進めた。
ネットワークの会員数はおよそ140。その9割を農業生産者が占め、残りは飲食店、物流会社や農業資材会社という構成だ。このネットワークを活かした事業として、筑邦銀行は2021年に地域商社を作り、地元の農産品を集めてECサイトでの販売を始めた。しかし売上は順調だったものの、利幅が小さく利益が出なかった。
「大々的に始めたものの、一旦やめる決断に至りました。持続可能な事業にするための『出口』を考えていなかったことが失敗の要因だった」と語るのは、筑邦銀行執行役員でコンサルティング本部長の林昭信だ。
再出発に際し、出口戦略の一歩として、林を中心とした「筑邦銀行アグリチーム」は、以前より動産担保融資(ABL、Asset Based Lending)の取り扱いで業務提携していたトゥルーバグループホールディングスの子会社「トゥルーバアグリ」と、2023年にアグリビジネスに関する包括業務提携を結ぶ。
トゥルーバーアグリは、全国で150の金融機関と提携関係を持ちつつ、複数の農場展開の実績を持つトゥルーバグループの農業支援リソースで、このノウハウを活用しようと考えたからだ。
業務提携により、農地の購入を通じた農業への参入が認められる農地所有適格法人を具備した「筑邦トゥルーバファーム」を設立する。ここから本格的に農業の産業化へと舵を切ることになる。
まず具体的な『出口』として、目を付けたのが大阪市内に5店舗展開する焼肉店だった。
松阪牛のみを扱う高級焼肉店として、特にインバウンド客に非常に人気が高く、業績も右肩上がり。しかし、運営会社であるRIGHTHOUSEは事業承継問題を抱えていた。
この経営課題こそ銀行の出番である。
2023年に筑邦銀行と協力して、トゥルーバグループホールディングスの関連会社が買収し、完全子会社にしたのだ。出口戦略として有力だと判断した筑邦トゥルーバファームも関与し、RIGHTHOUSEに店舗で使う果実などを、ちくぎんアグリネットワークの会員生産者から卸すことになった。
「この焼肉店のお客の大半は、インバウンドの富裕層です。福岡の銘柄米や新鮮な旬の野菜や果物を食べてもらうことで、気に入れば輸入を考えてくれる可能性も大いにあると思っています」と、さらなる出口の拡大を見据えた上での買収だったことを林は明かし、「農業の産業化のために、まず座組を作った事例は、他の地銀にはないと思います」と自負する。



