スノーディ:今、新NISAは年間投資額が成長投資枠で240万円ですよね。日本株の多くは最低購入金額が数十万円ですから、せいぜい投資できるのは10社程度。それでは十分なポートフォリオ形成にはつながりません。東京証券取引所が4月に最低購入金額を10万円に引き下げる要請を出しましたが、こうした動きには期待したいですね。
藤野:この数年、東証の改革が行われていますが、その背景には金融庁や経済産業省、自民党の若手幹部等の働きかけがありました。官民を挙げて、マーケットを活性化させることが重要だという共通認識と、それに伴う新しい流れが出てきたのは歓迎すべきこと。売買単位の引き下げもそうですし、PBR1割れの解消要請など、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた取り組みが顕著です。東証がヘッジファンドやアクティビストについて、敵対的な存在ではなく、日本の改革を促す重要なパートナーととらえるようになったことも意義が大きいですね。
日経平均株価は10万円超えか
高野:マーケットの中長期的な展望についてはどう見ていますか。
スノーディ:私は日本株については強気です。理由はふたつ。ひとつは単純で、高齢化がさらに進むなかで、日本経済全体に生産性の向上、つまり企業収益を上げていかなければならないという圧力が働くから。もうひとつは、SO(ストックオプション)の観点からです。国内には上場企業が3,950社(6月24日時点)ありますが、このうちSOを導入しているのは1,100社前後です。今まで企業の株価が上昇して投資家が利益を得たとしても、多くの会社の社員にとって、それによる利益はほとんどありませんでした。一方で日本の実質賃金は上がっていない。これからSOは、大きなアップサイドの要因になると思います。
藤野:私は今後10年間で日経平均株価の10万円超えは手堅いと思っています。理由は3つ。ひとつは、日本もグローバル経済と同じくインフレになってきたこと。この30年間、日本はデフレ経済が続いてきて、例えば、同じ食品でも日本と米国で3倍くらいの価格差があります。一方、味はどうかというと、日本のクオリティはすごく高い。つまり、実際の価格差は3倍以上ある。インバウンドが盛り上がるのも当たり前というわけです。ただ、経済学的に見て価格差というのはいずれ必ず縮まっていくもの。世界が日本に歩調を合わせていくことはないでしょうから、その逆になる。10年間ぐらいかけて物価は2倍、3倍と上がらざるをえません。インフレによって名目ベースの企業業績が上がっていけば、株価も膨らんでいくというロジックです。
ふたつ目は、大企業の変革です。この鼎談の直前にも、大手生命保険会社の社長と面談してきたのですが、株価を上げて、資本コストよりも高い利益をいかに上げるかを非常に強く意識していました。こうした経営者がこの数年でかなり増えてきた。3つ目は、経済の起爆剤として、スタートアップ起業家の質が明らかに上がっていること。これらは大きな流れだと思います。
高野:今、金利が上がっているのに日経平均株価が4万円前後になっていて、バブル期を超えていることを不思議に思う人がいますよね。でも、バブルのとき日経平均のPERは約60倍で、益利回りで約1.66%。日本の長期金利は4〜7%ほどありました。バブルなことが明確な水準だったわけです。でも、今の日経平均のPERは13〜14倍ぐらいで益利回りは7%台、長期金利は上がったといえども1.5%程度です。今の水準でも十分リターンを狙えます。
これからのキーワードは、「アンロック・ジャパン」かもしれませんね。この30年間、安くて品質のいいモノがたくさんあるのに、海外から注目されていなかった状況からアンロック=解放されてきていると感じます。例えば、熊本に半導体受託生産大手の台湾TSMCが進出していますよね。もちろん土地が安い事情もあるけれど、これだけ安い人件費でこんなにも優秀な人材がいることが注目されたと思うんです。こうした動きがいろんな領域で起きて、日本に資金が流入するサイクルに入ってくるのではないでしょうか。


