私たちは、以前とはまったく異なる世界を生きている。コロナ禍以降、ビジネスの常識は進化し、職場はすっかり様変わりした。
AI(人工知能)が幅を利かせ(少なくとも、そんな印象を受ける時代になり)、以前よりも多くの世代が、同じ職場でともに働くようになったが、各世代のニーズや期待、スタイルは異なっている。ハイブリッド勤務やリモート勤務が広まったおかげで、生活しやすくなった人がいる一方で、私たちの多くが仕事を通じて感じていた「人と人との結びつき」や帰属意識が薄れつつある。地政学的な情勢も忘れてはならず、余波を受けていない業界や職務は皆無と言っていいだろう。こうした変化一つ一つが、リーダーシップに大きな影響をもたらしている。
危機を迎えるリーダーシップ
組織のマネージャーや経営陣は心もとない思いをしており、ストレスのレベルは上昇する一方だ。前述したような複雑な職場環境において、部下をやる気にさせ、仕事に関与させるリーダーの能力は低下してきている。その結果として、従業員の多くは、経営陣から心が離れ、ひいては仕事からも距離を置くようになってしまった。
米調査会社Gallup(ギャラップ)によると、「勤務先のリーダーシップを信頼している」という設問に対して「非常にそう思う」と回答した従業員は21%にすぎない。「上司よりも、AIに相談したり助けを求めたりする方が気楽だ」と答えた従業員は39%いた。Z世代の10%は、「現在の上司よりも、AIが上司になった方がいい」と答えた。
ストレスや不信、不確実性、孤独への緩和剤としてのオーセンティック・リーダーシップ
現在生じつつある多種多様な状況に対処するために、リーダーは、ありとあらゆるリーダーシップ術を駆使しなければならない。しかし現代のリーダーは、何よりも「オーセンティック(真正な)リーダーシップ」を中心に据えることで、関係者たちと、意義ある本物の関係を築くことができる。
オーセンティック・リーダーシップの土台は、自己認識、信頼、透明性、思いやりだ。こうした資質を態度で示すリーダーこそ、広範囲にわたって変化が起きるさなかで働く人たちを的確に動機づけ、関与させられる。
オーセンティック・リーダーは、自分に課された第一の責務は、「従業員が成長できる環境の構築」であることを理解している。彼らにとってのKPIは、単なる「Key Performance Indicator(重要業績評価指標)」ではない。従業員のエンゲージメントと帰属意識、成長をもとに成功を図る「Key People Indicator(重要な人材評価指標)」という意味を持つ。



