では聴衆はどうでしょうか。音楽の中でもクラシック音楽は実に様々な文化が合わさってできています。題材もギリシア神話からゲーテの古典文学、象徴派と呼ばれる絵画までと幅広いです。
ですからクラシック音楽を少しでも知りたいと思ったら、こうした文化に対する関心や理解とは決して切り離すことはできません。例えば18世紀のヨーロッパの社会的、文化的な背景を知ることで、その時期に作られた音楽を感じやすくするための鍵となることがたくさんあります。
歴史や文化を勉強すればするほど、音楽が楽しめる可能性が高くなります。知的好奇心が旺盛な人ほど、クラシック音楽に興味を持てる傾向は確かにあるでしょう。
動物の遠吠えと「歌の原点」
しかし、だからといって歴史や文化をたくさん勉強するとどうなってしまうでしょうか。
演奏家も聴衆もだんだんと音楽を頭で考えるようになります。音楽を頭で聴くようになってしまうのです。
音楽を聴く上で大事なのは、頭で聴くことではありません。音楽の原点にはいくつかの通説がありますが、その一つがコミュニケーションです。狩りに使われた角笛や、遠くの人に危険を知らせる合図などがコミュニケーションとしての音楽の始まりです。
僕は歌手ですから、歌の原点について考えます。
その時に決まって考えるのが、狼など動物の遠吠えです。一言で遠吠えといっても様々な感情が含まれているように感じます。警戒している声、仲間が死んで悲しんでいるように聞こえる声など実に様々です。狼が本当は何を感じているかは想像するしかありませんが、歌の原点はこうした動物の遠吠えと非常に近いところにあります。声で自分の感情を遠くまで届けようとしたのが始まりです。


