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2025.08.09 13:15

「AIにできない」これが3領域。事業創出家が推す『ことを起こす力』とは?

生成AIの急速な進化は、単なる革新にとどまらず、「人間とは何か」という根本的な問いをも社会に突きつけている。知識や情報処理能力、判断力がAIに代替される時代において、私たち人間に残された価値とは何か。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授であり、『20代に伝えたい50のこと』著者でもある秋元祥治が、「人間の本質」を再定義する。

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「人間にしかできないこと」は3つに集約できる

いま、社会の深層で起きている変化に、私たちはどれだけ自覚的だろうか。

生成AIの急速な進化は、もはや目新しい技術の話ではない。ChatGPTをはじめとするAIは、調査、文章作成、要約、翻訳、分析、さらには専門的アドバイスまでこなすようになった。数年前まで「人間しかできない」とされていたホワイトカラーの仕事の多くが、AIに代替される現実がいま進行中である。

この変化は単に仕事のやり方が変わるというレベルの話ではない。知識の価値とは何か、働く意味とは何か、人間らしさとは何か──社会の根底にある定義そのものが、書き換えを迫られている。

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「知識をたくさん持っていること」
「情報を速く、正確に処理できること」
「専門性を活かして適切な判断を下すこと」

これらはかつて、人間の知的価値の中心だった。しかしAIは、それらの多くを“それなり以上に”こなしてしまう。知識偏重型の社会は、大きく方向を変えざるを得ない。

では、これからの社会で「人間にしかできないこと」とは何か? 私は、それを以下の3つに集約できると考えている。

アントレプレナーシップ(問いを立て、行動を起こす力)
クラフトマンシップ(身体性と空間性に根ざした創造)
コミュニケーション(関係性を育み、信頼を築く力)

いずれも、AIには根源的に代替できない。そしてこの3つの力こそ、次の時代を形づくる人間の本質だ。

1 | アントレプレナーシップ:問いを生み、ことを起こす人になる

AIは、与えられた問いに対して最適解らしきものを返すのは得意だ。だが、「そもそも何を問うべきか」という問題設定そのものは、AIにはできない。ここにこそ、人間ならではの創造性がある。

企業経営においても、行政運営においても、家庭においても、「今ある課題をどう解決するか」よりも、「そもそもこの前提は正しいのか」「何がいったい課題なのか」「新しい価値をどう生み出すか」といった“問いを立てる力”がますます重要になる。

つまり、気付けるのか?ということが重要なのだ。

私自身、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部で教鞭を執り、学生たちと共に「問いを立て、現場に飛び込み、プロジェクトを形にする」取り組みを続けてきた。ここでは知識よりもまず、「違和感」や「なぜ?」という感受性を育てることに注力している。たとえば、地域の商店街や中小企業、あるいは福祉や教育の現場で課題を見つけ、その現場に入り込み、経営者や住民と対話しながらプロジェクトを立ち上げるという実践を行っている。

私が大切にしているのは、「机上で構想を練る」のではなく、「社会の中で問いを育てる」ことだ。現場で出会った課題や人との対話の中にこそ、真に自分ごととしての問いが生まれ、アントレプレナーシップが芽吹く。

これは単なる大学教育の話ではない。私はこれまで、愛知県岡崎市で公的支援拠点OKa-Bizを立ち上げ、中小企業の売上アップや新事業創出をサポートしてきた。さらに、G-netというNPOを通じて、若者が中小企業の右腕として実践型インターンに取り組む仕組みを20年以上続けてきた。そのすべてに通底しているのは、「人は、自分の中に問いを持ったときにはじめて本気で動き出す」という信念だ。

アントレプレナーシップは、“資質”ではない。“訓練”である。問いを立て、仲間を巻き込み、試行錯誤の中で行動を起こしていく力。それを育む教育と社会設計が、いま最も求められている。誰もが起業家(entrepreneur)になる必要はないが、「アントレプレナーシップを持った生活者」としての思考と行動が問われる時代なのだ。

日本の教育は依然として正解主義に縛られているが、私は「問いの連鎖こそが創造の源泉」であることを、実践と理論の両面から伝え続けたいと思っている。書籍『20代に伝えたい50のこと』でも語ってきたように、「自分だからできること」を見つける旅は、誰にでも開かれている。それを信じられる環境を、教育の場から社会へと広げていく必要があるのだ。

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