3|コミュニケーション:関係性をつくる力が、価値になる
AIは「言葉を生成する」ことはできる。だが、「関係性を築く」ことはできない。
人と人の間にある信頼、文脈の読み取り、空気の機微、沈黙の意味。そうした要素は、単なる言語ではなく“関係性の中で生まれる情報”である。
以前、ある弁護士と話をしたことがある。彼は「法律や判例は、すべての弁護士が同じように扱える。だが、依頼者の話を丁寧に聴き、共感しながら伴走できるかどうかが差を生む」と語っていた。つまり、知識よりも“関わり方”が選ばれる理由になる時代なのだ。
これからのリーダーやマネージャーに求められるのも、知識や論理力より「関係性を編み直す力」だ。チームの心理的安全性を高め、異なる立場の人たちのあいだに対話を生み出すこと。共感と創発を育む環境を構築すること。それが、組織や社会を動かす原動力となる。
しかし残念ながら、日本の教育では「聴く」「話す」「対話する」ことのトレーニングはほとんどなされてこなかった。国語教育はあっても、対話教育はない。ロジカルシンキングは教えても、傾聴やファシリテーションは教えない。
今後は、幼少期から「対話と信頼」を育てる教育が必要だ。たとえば、アクティブラーニングや、ピア・ダイアログなどを通じて、他者と深く関わる経験を積み重ねていくこと。それが、AI時代の人間力を底上げする鍵となる。
AIが突きつけた「人間にしかできないこと」
AIによって代替されるもの。それは、「定型化された情報処理」や「再現可能な判断」だ。逆に言えば、AIが苦手とするのは、「未定型で文脈依存な問い」「空間と身体がつくりだす創造」「人と人のあいだに生まれる信頼」だ。

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この“代替されない三領域”を、どう育て、どう価値化していくか。それが、これからの社会設計の核心となる。働くとは何か。学ぶとは何か。豊かに生きるとは何か──。
その答えは、もはや“正解”ではなく、“共に問い続けるプロセス”の中にしか存在しない。だからこそ今、私たちは「人間にしかできないこと」を問い続けるべきなのだ。そして、それを育てる教育・組織・社会のあり方を、本気でつくり直す時が来ている。


