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2025.07.15 08:35

VRで心の病を癒す、対面不要な新しい心のケア方法

Getty Images

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抑うつ症状などの心の病を抱え、他人との対面が難しい人たちには治療やカウンセリングを受けにくいという問題がある。そうした人たちも、仮想空間でのアバターを使った顔を見せない条件なら、心を開いて話ができ、症状が軽減される可能性が調査によって示唆された。

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横浜市立大学附属病院児童精神科講師、藤田純一医師らによる研究チームは、精神疾患を持つ3人の若者を対象に、仮想現実(VR)空間での交流が心理状態に与える影響を調べた。この3人は、心の悩みを抱える人たちがVR空間で心情を語るNHKのドキュメンタリー番組『プロジェクトエイリアン』に参加した人たちだ。この番組には横浜市立大学Minds1020Labが学術的な協力をしている。同番組は、外見や先入観にとらわれず、心の内を語り合える「安全な場」として設計されているとのことだ。

NHK『プロジェクトエイリアン』の1シーン。
NHK『プロジェクトエイリアン』の1シーン。

研究チームは彼らから、番組参加登録時、番組収録前(VR体験前)、放映の視聴後(VR体験後)の3つのタイミングでの心理的な変化を聞き取った。友人関係、家族関係、病状の変化を聴取し、さらに自己記入式質問紙で孤独感、レジリエンス(回復力、立ち直る力)、抑うつ症状の変化を測定した。

すると、このVR体験により参加者全員のレジリエンスの向上と抑うつ症状の軽減が認められた。孤独感に関しては、不変もしくは軽度上昇という結果だったが、参加者の言葉からは「他者とつながりたいという前向きな気持ちの表れ」が見られたという。

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おもな研究結果
レジリエンス(回復力)の向上
・全参加者でレジリエンススコアが改善
・特に1名で大きく改善
抑うつ症状の軽減
・全参加者で抑うつスコアが減少
・うつ症状の軽減が見られ、1名は「軽度」から「最小限」レベルまで改善
社会的つながりへの意識向上
・孤独感は3名とも不変もしくは軽度上昇
・参加者の語りから他者とつながりたいという前向きな気持ちの表れと解釈
感情表現の段階的変化
・都市部→宇宙船→月面という3段階の仮想環境で、感情表現が豊かに変化
・初期の興奮や好奇心から、深い自己開示、そして希望的な未来志向へと発展

また番組では、仮想環境が都市部、宇宙船、月面へと変化したが、それにともない参加者の感情が、初期の興奮や好奇心から深い自己開示、希望的な未来志向へと発展する様子が見て取れた。参加者たちは「同じような苦しみを持つ人がいることを知って、自分だけじゃないと気づけた」、「自分をもう少し信じてみようと思う」、「変化を無理強いする必要はないけれど、挑戦し続けることが大切」と番組内で話していた。

これはあくまでも本格的な研究の予備段階であり、これをもとに仮説を立て検証へと進むことになるのだが、「心理的安全性が担保され、自己開示が促進された可能性」および「異なる背景を持つ他者との相互作用が、孤立感の低減とレジリエンスの向上に寄与した可能性」が示唆された。VRを活用した新しいピア支援(同じ境遇の人たちによる相互サポート)の形としての社会実装を目指すと研究チームは話している。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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