森林資源を保全し、活用するための新規事業を次々と立ち上げる。元プラントエンジニアの3代目が、京都から日本の林業に改革を起こし始めた。
先進国のなかで世界3位の国土森林率を誇る日本。しかしその林業は今、危機的状況にある。安価な輸入材に押され、国産材の価格が低迷。後継者不足も深刻化し、1955年に95%あった木材自給率も、近年は約40%にとどまっている。森から木を切り出す事業者やそれを加工する製材所、木材の取引が行われる市場は、分業が進んでいて閉鎖的。情報も分断されているため、家具メーカーや消費者のニーズと木材供給のミスマッチが多く発生し、商機を逃したりロスが発生したりして、適正価格で売りにくくなるという「儲からないループ」に陥っているのが現状だ。
こうした課題に風穴を開けようとしているのが、京都府で創業60年を超え、府内一の丸太生産量を誇るあしだの3代目、芦田拓弘だ。彼が仕掛けるのは、効率的な流通網の確立で、国産材の価値を底上げする取り組みだ。芦田が立ち上げた木材流通専用のプラットフォーム「EFF木材流通システム」のアイデアは、3月に開催された新規事業ピッチコンテスト「第5回アトツギ甲子園」(中小企業庁主催)で、グランプリである経済産業大臣賞を受賞した。
「うちの家業は、環境破壊をしているんじゃないか?」──。小学生のころ、初めて環境問題を学んだ芦田の心にこんな問いが去来した。以来芦田は、自然やエネルギー問題へと関心を向け、大学では応用科学を専攻。新物質の合成研究に没頭した。
世界的なプラントエンジニアリング企業に入社すると、海外プロジェクトにも参加。人的ミスが大事故につながる現場で、ヒューマンエラーを極限に減らす作業員向けマニュアルの整備や組織づくりに携わるなかで、「ミスをしないAIやロボットに人間の仕事が置き換わっていく」未来をリアルに予感したという。次のキャリアを模索し始めたとき、「AIに代替されにくい仕事は何か?」と考えた。そして行き着いたのが、林業だった。農業は機械化が進んでいるが、起伏の激しい山林で重機搬入のためのルート設計を行う林業は、土壌の質や岩の有無など、現場の状況を判断する人間の経験が不可欠だ。
「林業はAI化の波が最後に来る場所。だからこそ、林業は人がやりがいを感じられる仕事であり続け、最終的には人が集まってくると考えました。未来の林業を担う人材を受け入れられる素地を、先回りして用意しておきたいという思いもあったんです」



