サイエンス

2025.07.08 16:00

時速210キロで飛び、皇帝に愛された 北極圏の白き空の王者シロハヤブサの知られざる生態

シロハヤブサ(Shutterstock.com)

シロハヤブサ(Shutterstock.com)

ハヤブサ属は35種以上が知られているが、どれもそれぞれに素晴らしい魅力がある。なかでも、少なくともサイズという点で際立っているのがシロハヤブサだ。

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シロハヤブサ(学名:Falco rusticolus)は北アメリカ、ヨーロッパ、ユーラシア大陸の北極圏近くに分布する堂々たる鳥だ。翼開長は60インチ(約150cm)超にも達する。メスはオスよりも大きく、体重が4.5ポンド(約2kg)を超えることもある。

体色は個体によってさまざまに異なり、ほぼ真っ白から濃灰色、黒まで多岐にわたる。白っぽい個体はグリーンランドでよく見られ、黒っぽい形態はどちらかといえばユーラシアでよく見られる。

シロハヤブサは、ライチョウやカモなど他の鳥を狩るのを得意としており、意表をつく急襲よりも、スピードと追跡戦術を利用する。

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シロハヤブサは、歴史を通じてあがめられてきた。とりわけ中世には、王や貴族たちが楽しむ鷹狩りで珍重された。シロハヤブサは強さ、美しさ、品格の象徴なのだ。

ここでは、シロハヤブサが歴史と生態学的風景に残してきた、そしていまも残しつづけている痕跡を3つ紹介しよう。

1. 鷹狩りの生ける伝説

鷹狩りで珍重されるシロハヤブサ(Shutterstock.com)
鷹狩りで珍重されるシロハヤブサ(Shutterstock.com)

シロハヤブサほど、文化的な重みをもつ鳥はほとんどいない。中世にはこの北極圏の猛禽類が、ヨーロッパや中東の貴族のあいだで究極の地位の象徴と見なされていた。

ノルウェーとデンマークの王たちは、貢ぎ物や外交上の贈答品として、シロハヤブサを他国の君主に贈っていた。例えば1984年の研究のなかで、科学者のウィリアム・バーナムとウィリアム・マトックスはシロハヤブサを以下のように描写している。

「ヨーロッパでヴァイキングが覇権を握っていた時代から900年以上にわたり、グリーンランドの偉大なる『白きハヤブサ』は珍重され、称賛されてきた。グリーンランドの白きハヤブサ、すなわちシロハヤブサは、皇帝の鷹狩りのための鳥として知られ、計り知れない価値が置かれていた。『王の身代金』に相当するほどの、非常に高価なものだった」

シロハヤブサの価値があまりにも高かったため、かつてはグリーンランドとアイスランドの経済全体が、王族の鷹狩り用のシロハヤブサの捕獲と売買によってかたちづくられていた。生息地が限られ、捕獲が難しいことから、シロハヤブサの所有は単なる楽しみ以上のものだった。莫大な富と国際的な影響力のデモンストレーションだったのだ。

現在でも中東の鷹狩りでは、シロハヤブサが最も威信ある鳥とされる。狩りと伝統のために、しばしば選択的に交配されている。

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翻訳=梅田智世/ガリレオ

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