石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の産油国から成る「OPECプラス」の有志8カ国は5日、8月の原油生産量を日量54万8000バレル引き上げることを決定した。この市場を驚かせた増産を受け、世界の石油市場は今後、供給過剰に陥るのではないかとの懸念が広まっている。
OPECプラスはここ3カ月連続で日量41万1000バレルずつ増産していた。この一連の増産は、OPECプラスが近年続けていた日量220万バレルの自主減産を段階的に解除する試みの一環だ。今回の増産により、これまでの減産分の87%以上に当たる日量192万バレルの減産が解除されたことになる。
増産の理由について、サウジアラビア、ロシア、イラク、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カザフスタン、アルジェリア、オマーンの参加国は「健全な石油市場と安定した世界経済の見通し」を挙げ、北半球の夏の需要増を背景に、世界の石油市場が増産分を吸収できるとの期待を示した。他方で、OPECプラスは、今後の市況の変化に応じて増産の一時停止や撤回の可能性もあると説明。「こうした柔軟性により、引き続き石油市場の安定を支えていくことができる」と明言した。
石油市場が供給過剰に陥るとの懸念も
どう見ても今回の増産は過剰だが、背景には、より多くの原油を市場に投入して市場シェアを拡大しようとするOPECの狙いがある。だが、唯一の問題は、現在世界最大の産油国である米国を筆頭に、OPEC非加盟国の原油生産量も過去に例を見ないペースで増加していることだ。
米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)によると、4月の米国の原油生産量は過去最高の日量1347万バレルとなり、2024年10月の日量1345万バレルの記録を更新した。ブラジル、カナダ、ガイアナ、ノルウェーといった他のOPEC非加盟国も生産を拡大している。国際エネルギー機関(IEA)によると、OPEC非加盟国の原油生産量は合計で日量140万バレル増加する見通しだ。
今年の世界全体の石油需要の増加については、IEAが日量72万バレル、OPECが同130万バレルと予測するなど数値の幅はあるが、OPECプラスが今回の増産に踏み切らなかったとしても、これらOPEC非加盟国の生産量の増加分だけで、いずれの予測機関が提示している見通しをも十分に賄うことができる。
このように、世界各地から追加的な原油が流入していることから、石油市場では日量50万~60万バレル、あるいはそれ以上の供給過剰が生じる可能性があると懸念する声もある。OPECプラスが市場シェアの拡大を目指してOPEC非加盟の産油国と競争する中、原油価格は今後下落する可能性が高い。
中東の緊張が高まる前の5月時点で、米金融大手ゴールドマン・サックスのアナリストは、今年後半に指標原油価格が下落し、平均原油価格は1バレル60ドル(約8750円)を下回り、北海ブレント原油が同56ドル(約8170円)、米国産ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油が同52ドル(約7580円)になると予測していた。同業他社のアナリストも軒並み、2025~26年の原油価格予想を同60ドル台以下に下方修正している。OPECプラスの今回の増産によって、重大な地政学的緊張やマクロ経済的な出来事がない限り、その予想が現実のものとなる可能性がはるかに高まった。



