7月のモンゴルは旅真っ盛りだ。前回のコラムで、ちょうどいま頃、かの地で開催されている草原の音楽フェス「プレイタイム」の話を書いたが、いまでもこのフェスのことを思い出すと、身体の底からゾクゾクしてくる。
このゾクゾクの正体は何だろうと考えたのだが、海でも山でもない草原という未知なる土地、その領域をわずかであれ垣間見たものの、それはどんな体験だったのかいまだにつかみかねている。それゆえ、静かな興奮が持続している、そんな感じなのだ。
筆者は、いわゆるエコツアーのような自然を体感する旅は肌に合わないタイプである。むしろ、いまのモンゴルの面白さは、草原と都市を同時に体験できることだとこれまで書いてきた。
モンゴルの現代写真家のインジナーシ・ボルさんの作品に心惹かれるのも、モンゴルが昔ながらの、のどかな遊牧民の暮らす国ではなく、現代化やグローバル化でもがき苦しんでいる彼らの姿に共感を覚えるからだ。
もしかしたら、このような人間はいわゆるモンゴル観光の魅力を語るには、少々面倒くさいタイプかもしれない。そんなすれっからしの筆者だが、昨夏のある1日の2つの思い出話をしてみたいと思う。
草原の只中にある無人駅が素敵すぎた
首都のウランバートルに滞在中、モンゴル観光のキーパーソンでもあるHISモンゴルの原田紀さんから、ぜひ筆者と写真家の佐藤憲一さんに体験してもらいたい場所があると言われた。
こうして出かけることになったのが、ウランバートルの西方にあるホスタイ国立公園という草原だった。
同行してくれたのは、モンゴルで日常食となっているロシア風グルメなど、さまざまな食の世界を案内してくれたバイナさんという現地ガイドだ。社会主義の時代を知らない1988年生まれのモンゴル人で、日本の留学経験もある男性だ。
バイナさんの提案で、いったんモンゴル縦貫鉄道に乗り、途中下車して車で現地に向かうことになった。
ロシアと中国をつないで南北に走るモンゴル縦貫鉄道は、ロシア連邦ブリヤート共和国のウラン・ウデからウランバートルを経由し、中国内モンゴル自治区エレンホト(二連浩特)に至る約2000キロメートルの路線である。
モンゴル国内区間のほとんどは高原で、海抜も600メートルから1700メートルと起伏が激しく、急カーブも多いため、運行速度は時速75キロメートルほどだという。



