コメの小売価格は、昨年の春から上昇を続け、5月現在、昨年同時期の価格の2倍を上回る水準で推移している。農水省は当初、収穫量は十分あったので、流通の目詰まりが原因だ、と主張し、備蓄米の放出には否定的であった。しかし、価格高騰が続くなか、2月14日に備蓄米の放出の条件を農水省が発表した。以降4月末までに、3回、31万トンの売却が行われた。しかし、備蓄米売却の小売価格への影響は、これまでのところ極めて小さいようだ。
今年のコメ価格の上昇の原因は、需要に対して生産量が不足した、という、経済学的には、単純な構図だったことがわかってきた。では、なぜ生産が不足したのだろうか。それは、農水省が農協を通じて行っている事実上の「減反」政策である。
「減反」は、1970年から2018年まで続いた農水省の政策である。農水省が、コメが供給過剰にならないよう、農協を通じて個別にコメ農家に生産能力(水田面積)のうち一定の割合を生産しないように強制していた制度である。コメの集荷はほぼ全量、農協が一手に引き受けていたので、強制力は強かった。農水省は、1960年代初めをピークに漸減していたコメの消費量の推移を見ながら、翌年の減反後の生産量を決めていた。
このように、生産量と消費量を、生産量の制御で一致させようという政策は、ソ連で実践されていた社会主義的計画経済の発想である。そこには、価格メカニズム、生産地間の創意工夫による競争、生産者と消費者を直接結びつける流通改革、という考え方はない。
減反政策は、2018年に廃止されたことにはなっているが、事実上主食用コメの生産を抑制するメカニズムが続いている。生産目標数量を廃止したものの、それ以降も、農水省は「適正生産量」を公表してきている(詳細は、キャノングローバル戦略研究所山下一仁、『水田はあるのに「主食のコメ」を作らせない』、を参照されたい)。
今年のコメ価格高騰は、農水省の事実上の減反政策という社会主義的計画経済が、大きく破綻したことが原因と言えよう。コメの販売が次第に自由化されてきたこともあり、生産量の全量把握が難しくなったことも、原因のひとつと考えられる。伝統的な流通経路は、コメ農家から農協が集荷し、卸売業者を通して、スーパーなど小売業者にわたり、消費者に販売される。しかし、次第に、生産者から消費者、大手スーパーに直接販売するなど流通経路が多様化するなかで、社会主義的需給コントロールが時代遅れになっている。「事実上の減反政策」はやめるべきである。



