40年以上続いた減反政策は、大規模生産者への影響が大きく、大規模生産者の生産意欲をなくし、コメ産業全体の生産性向上の意欲を削いできた。農地の規模別生産コストをみると、大規模農家(経営面積50ha超)の生産費は、小規模農家(0.5-1ha)の半分以下、中規模農家(10-15ha)の8割以下、である。減反政策は、生産効率の良い大規模農家の成長を妨げ、生産効率の悪い小規模農家の生き残りを助けてきた。産業政策として生産規模を縮小するときには生産効率の悪いところから生産削減をするのが筋である。もちろん、退場する小規模生産者に一時金や転作補助金を出すことは妨げない。減反政策の矛盾がいちばんよくわかるのが、大潟村の減反反対運動だ。国策で八郎潟を埋め立て、大規模農業を行うことができると入植者をつのり大潟村ができた。ところが、大規模農業を夢見て入植を始めた直後に減反が導入され、約束が違うという強力な反対運動が起きたのである。国策の振り子に翻弄されたコメ生産者の怒りは当然である。
5月14日、JA全中会長の山野徹氏は、「(今の米価は)決して高いとは思っておりません」と発言、コメの高値を正当化している。農水省がコメの需給予測を間違えた結果のコメ高値は、JAにとっては好都合だったようだ。今年秋以降も、コメの価格は大きく下がらないかもしれない。(5月20日記)
伊藤隆敏◎コロンビア大学教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D.取得)。1991年一橋大学教授、2002-14年東京大学教授。近著に、『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。24年春、瑞宝中綬章を受章。


