イスラエルはたしかに質の点では有効な防空システムを保有しているものの、この戦争では裏で量が問題の消耗戦が進んでいた。そして、時間の経過とともにイスラエル側が不利な立場に置かれるおそれがあった。というのも、イスラエルの迎撃ミサイル(アロー2とアロー3)の在庫数よりも、イランのMRBM級ミサイルの在庫数のほうが多かった可能性が高いからだ。
弾道ミサイル用の迎撃ミサイルは非常に高価で、1発あたり数百万ドル以上するのが普通だ。年間の生産数も限られる。前出のレアは、観察されているTHAADの使用数39発というのは、このミサイルの年産数(32発)を上回ると指摘している。THAADは1発あたりおよそ1200万ドル(約17億円)もする。アローはもう少し安いものの、それでも数百万ドルする。
イランによるミサイル攻撃が長引けば、イスラエルは上層防空用の迎撃ミサイルが枯渇しかねなかった。ウォールストリート・ジャーナル紙の6月18日の報道からは、こうしたミサイル不足は実際にイスラエルに迫っていたことが示唆され、米軍は応急で追加リソースを投入していたとされる。
イスラエル側は、着弾地点が人口密集地近くでないと予測されたミサイルについては迎撃を見送ることで、迎撃ミサイルの在庫を節約した。また、イランのミサイル発射機を精力的に攻撃することを通じて時間的猶予を得た。こうした戦法は「レフト・オブ・ローンチ(発射前段階)」防御として知られる。
イラン側もレフト・オブ・ローンチに狙いを定め、イスラエルの戦闘機基地やその補給拠点を攻撃しようとしていたのかもしれない。事実、イスラエルの複数の空軍基地が被弾している。もっとも、戦闘機の損害を示す視覚証拠はいまのところ確認されていない。
イスラエルの迎撃ミサイルの備蓄が尽きる前に、戦闘はひとまず終結した。それでも12日間のこの戦争は、弾道ミサイルに対する防衛をめぐって、すでにロシア・ウクライナ戦争や過去の中東紛争で明らかになっていた重要な現実をあらためて浮き彫りにした。弾道ミサイルを撃墜する手段を持つというのはたいへん魅力的に思えるが、実際にその手段で撃墜するには非常に高いコストを伴う(その手段のほうが防衛対象のミサイルよりも高価ですらある)ということ。そして、世界的にみて迎撃ミサイルの年間生産量は、相手とする攻撃兵器の備蓄量に比べて依然として足りていないということである。


