北米

2025.07.02 08:30

上院可決のトランプ減税法案、「債務・政治複合危機」の芽はらむ

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米国とイランによる軍事攻撃の応酬はある種パフォーマンス的なものとなり、中東で核の絡む「熱戦」は当面回避された。しかし、悪いニュースは、それよりはるかに大きな危機が待ち受けていることだ。

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この1カ月半かそこらの間に、投資家のレイ・ダリオ、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)、さらには連続起業家のイーロン・マスクといった著名な財界人たちが、米国(やほかの国々)の財政赤字の膨張や莫大な債務について警告した。世界銀行のチーフエコノミスト、インダーミット・ギルは最近、ブログへの投稿でこの問題を手際よくまとめている。

米議会上院では1日、ドナルド・トランプ大統領肝いりの減税・歳出法案「一つの壮麗な法案」が可決された。独立機関である議会予算局(CBO)は、可決された案について、向こう10年で財政赤字が3兆3000億ドル(約474兆円)ほど膨らむと試算している。加えて、トランプが米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長の後任を近く選ぶという噂(パウエルの任期は2026年5月まである)も流れており、米国債を保有する外国勢を取り巻く状況はますます厳しさを増している。

ここで興味深いのは、世界で債務負担がどれほど巨大に膨らんでいるかではなく、むしろそれを気にかける人が少ないという点だ。西側諸国には、かつてはカトリックのような謹厳さで財政規律を誓う政治家たちが一定数いたものだが、政治が大きく変質して彼らは骨抜きにされてしまった。

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米国の上院にも以前は「財政タカ派(fiscal hawk)」と呼ばれる勢力がかなりの数いた。彼らは巨額の財政赤字を毛嫌いし、それを増税で解決することはもっと嫌悪していた(ちなみに、ここ数十年の米国で財政黒字を記録したのはリンドン・ジョンソン政権最終年の1969年度とビル・クリントン政権の1998〜2001年度だけで、いずれも増税が行われている)。経済学者のポール・クルーグマンはこうした財政タカ派を、赤字の危険性について警告するばかりで是正に本腰で取り組まない「赤字小言屋(deficit scold)」と皮肉った。

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翻訳・編集=江戸伸禎

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