現在、共和党の上院議員に財政保守派は数えるほどしかいない(クラブ・フォー・グロースという団体が毎年、上下両院議員の財政厳格度を評価するスコアカードを発表している)。共和党の上院議員の大半は、米国を財政の崖に近づけるような政策に喜んで賛成票を投じたようだ。だが、この法案は富裕層を優遇するばかりか、経済的に不安定な世帯を増やし、医療や教育の提供に悪影響をもたらすことになるだろう。
筆者が注目するもう一つの興味深い点は、債務と政治の関係が転換点に差しかかっており、今後は債務が政治を左右する時代に入ると見込まれることだ。これは少なくとも3つのかたちで起こると筆者はみている。
1つ目は、高水準の債務と財政赤字による「財政余力ゼロ」状況を背景に、政党内に新たな分断が生じるというものだ。たとえば、防衛費の増加を望む層と、社会福祉のセーフティーネット(安全網)を維持してほしい層との対立がそれに当たる。実際、英国のキア・スターマー首相による福祉給付削減に対し、多くの労働党議員が反旗を翻した例もある。将来的に、こうした分断は新たな政党の誕生につながる可能性がある。前の記事で触れたように、テック系起業家の政党が出現し、移民の労働をロボットで置き換えようとしたり、テクノロジーによる社会統制の仕組みを実装しようとしたりするかもしれない。
2つ目は1つ目と関連したもので、やはりばらまくお金がないために、従来のような利益誘導型政治は立ち行かなくなると予想される。政治家はその代わりに、アイデンティティー、外交政策、移民など、財政以外の分野に政治議論の主題を移していくだろう。
3つ目は、有権者がこれまで主流だった政治家について、きわめて厳しい財政制約を課された政治状況では無用だと見限るというものだ。その結果、有権者は概して政治に無関心になり、場合によっては、アルゼンチンの「チェーンソー経済学者」ことハビエル・ミレイ大統領のような、極端な候補に投票するかもしれない。
このようにして、またおそらく歴史上まれなかたちで、来たるべき債務危機は(世銀のギルの見立てが正しければ)現代の政治危機と密接に結びついたものになるだろう。


