北米

2025.07.02 08:30

上院可決のトランプ減税法案、「債務・政治複合危機」の芽はらむ

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1980年代に政権を担ったロナルド・レーガン大統領や、彼の周りの政策立案者、具体的に言えば財務長官を務めたドナルド・リーガン、ジェイムズ・ベイカー、ニコラス・ブレイディは財政保守派と評されるが、実際には減税や規制緩和を通じて米国経済を成長させる余裕があった。当時、共和党員の一部には「獣を飢えさせる」という発想があった。これは、減税によって政府の収入を減らせば自然に支出も減るという考え方だが、実際に効果的な戦略だったという証拠はほとんどない(レーガン政権初期の減税が主に富裕層を対象にしていたのが一因だ)。

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レーガン政権後は、財政赤字の削減を美徳とする姿勢が、クリントン政権のロバート・ルービン財務長官の時代に定着した。それはバラク・オバマ政権の初期まで、ルービンの元同僚や信奉者らを通じて引き継がれた(関連する民間組織として、ルービンが創設したハミルトン・プロジェクトがある)。

オバマ政権下の注目すべき取り組みの一つとして、財政赤字と債務の削減を目的とする超党派機関「財政責任・改革に関する国家委員会(通称・シンプソン・ボウルズ委員会)」の設立が挙げられる。いまにして思えば、この委員会について特筆すべきは、民主党と共和党の代表者の間にみられた礼節と協調の程度なのかもしれない。今日では、もうこのような機関の存在は考えられない。

実のところ、両党の一部が急進化した現在の状況では、量的緩和(によって債務や赤字の増大による影響が和らいだこと)もあって、財政責任と当選可能性とのつながりは崩れてしまっている。振り返れば、共和党の基盤に最初に亀裂が走ったのは「ティーパーティー運動」の登場だった。この運動は2009年にCNBCのコメンテーター、リック・サンテリがシカゴ・マーカンタイル取引所で「シカゴ・ティーパーティー」を呼びかけたことに触発されたもので、厳格な財政責任を掲げていた。しかし、ティーパーティーを支持していた有権者や共和党議員の多くは2016年の大統領選ではトランプに引き寄せられ、その代償として金科玉条の財政規律を放棄することになった。

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翻訳・編集=江戸伸禎

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