対象は米国の適格取引所に保管された暗号資産のみ
パルテ局長の書簡によれば、新たなガイドラインの対象となるのは、米国の適格取引所に保管された暗号資産に限定される。この方針により、本人確認(KYC)要件への対応が簡素化されるが、セキュリティ対策の一種であるハードウェアウォレットに保管された暗号資産は対象外となる。また、一時的に資産を認定カストディアン(保管先)に移すことで審査要件を満たすことは可能かもしれないが、そのプロセスには追加の手間と複雑さが伴うことになる。
一方、住宅ローン担保証券(住宅ローン債権を裏付けとして発行される証券)に投資する投資家は、暗号資産がもたらすリスクの変化を見極める必要がある。連邦政府の監督下にない信用格付け機関は、暗号資産担保型ローンのパフォーマンスを見た上で、それが政府支援の証券プールに組み入れ可能かどうかを判断する可能性がある。この判断が、新たな制度の住宅金融システム全体への導入時期や範囲に影響を与えることになる。
「暗号資産担保ローン業者」には追い風
マイアミを拠点とするフィンテック企業Miloは、これまで6500万ドル(約94億円。1ドル=144円換算)以上の暗号資産担保型の住宅ローンを発行してきた。同社はXの投稿で、「FHFAがこの道を認めれば、現代的な資産が住宅ローンの世界でどのように認識されるかに大きな変化が訪れる」と語った。
同社は、ビットコインやイーサリアムの保有者に対して、それらの資産の売却を求めずに最大100%の融資を提供している。ファニーメイやフレディマックが独自の基準を正式に採用するまでの間は、Miloのようなこの分野に特化した業者が、先行事例を示す役割を果たすことになる。
トランプ政権の公約のもと、ほぼすべての米国民が関わる分野に暗号資産を広げる
今回の命令は、2期目のトランプ政権の発足以降全米レベルで暗号資産の扱いが大きく変わったことを裏づけている。トランプは2025年1月にパルテをFHFA局長に任命し、住宅関連の政策と暗号資産を重視する政府の方針とを一致させた。
トランプ政権は、ビットコインの戦略的備蓄構想や「米国を暗号資産の中心地にする」という公約を通じて、暗号資産を伝統的な金融業界により深く組み入れようとしている。その取り組みを住宅ローン分野に拡大することは、ほぼすべての米国民が関わる分野に暗号資産を広げることになる。
トランプは、自身でNFTを発行したり、特定の暗号資産を公に支持したりして、暗号資産分野に積極的に関与してきた。このような関与は、トランプによる政治的任命や規制の変更が、彼自身やその関係者が関与するプロジェクトに影響を与える可能性があることで注視されている。
一方で、今回の命令がどのように実施されるかについては、依然として不明な点が多い。ビットコインが対象に含まれると予想されるが、ドルと連動するステーブルコインが対象となるかどうかはまだ明らかになっていない。さらに今後、ステーキングやマイニングによる収入が所得として認められるかどうかも不透明だ。現時点での命令は、暗号資産を「備えとして持っている資産」としてローン審査に反映させることのみを求めており、それによって得られる収入を審査に加味するかどうかには言及していない。
リスクと利点をどう評価するか
ここには検討すべきリスクも数多く存在する。暗号資産の価格は急激に変動するため、借り手の準備資産の価値が急減した場合には、ローンのリスクが上昇する。さらに、資産の価値や所有権の検証には困難が伴い、詐欺の発生も懸念される。また、住宅ローン担保証券の投資家は、こうしたリスクを考慮したより高いリターンを求める可能性がある。
FHFAの今回の命令は、暗号資産を法定通貨と認めるものではなく、この資産の保有者すべてに住宅ローンへの広範なアクセスを保証するものでもない。しかし、特定の暗号資産が住宅ローンの準備資産として考慮の対象になることを正式に認める内容となっており、住宅関連の金融や規制の枠組みに新たな考え方を導入している。
この政策がもたらす影響は、実際の運用次第で変わることになる。うまく機能すれば、値上がりした暗号資産を保有する個人が、それを現金化せずに住宅を取得する道が開かれる可能性がある。一方で問題が生じれば、関係する政府の支援先企業の安定性に影響を与える可能性がある。このプログラムは、暗号資産の保有が従来の住宅ローンの審査基準にどう相互作用するかを試す試金石となるはずだ。


