この特別法廷は、既存の国際的な責任追及メカニズムの重要な法的空白を埋めること、つまり、すべての発端である侵略という犯罪に対処することを目的としている。プーチンとその軍隊が手を染めてきた犯罪の多くはすでに、ウクライナ国内の機関や国際法廷によって捜査や訴追が進められているが、侵略罪にはいまだに包括的な対処がされていない。
たとえば、オランダのハーグにある国際刑事裁判所(ICC)は、ウクライナ領内で行われたジェノサイド(集団殺害)や戦争犯罪、人道に対する罪に関しては捜査権限を持つものの、ウクライナに対する侵略罪については管轄権を行使できない。なぜなら、侵略行為の当事国であるロシアはICCの設立条約であるローマ規程の締約国でないからだ。
国連安全保障理事会がこの事態をICCに付託するという選択肢はあるものの、当のロシアが安保理の常任理事国で拒否権を持っているため、それを試みても阻止されることになる。こうした事情から各国や専門家たちは、ウクライナでの「すべての犯罪の母」である侵略罪が責任の追及を免れることがないよう、ほかの選択肢を模索してきた。
ロシアの侵略罪を問う特別法廷はまったくのゼロから始動するわけではない。すでに「ウクライナに対する侵略罪訴追国際センター(ICPA)」が2年前から証拠の確保や初期段階の訴追準備の支援にあたっており、特別法廷はその活動の成果を活用できると見込まれる。
特別法廷は、プーチンやその側近ら戦争開始に関与した高官を対象とすることでICCの取り組みを補完し、正義と責任追及のためにすでに進められているほかの多くの方策に加わるかたちになる。侵略罪が国際的な法規範の隙間からこぼれ落ち続けるなか、特別法廷はこの犯罪に対処するための重要な一歩として歓迎されるべきである。


