Yコンビネータの2024年夏の育成プログラムに選ばれたスタートアップ「David AI(デビッドAI)」の評価額は、創業から1年足らずで1億ドル(約144億円)を突破した。
人工知能(AI)モデルのトレーニングには膨大なデータが必要だが、同社は音声AI向けの声のデータの有力プロバイダーとして急成長を遂げている。5月22日に発表されたDavid AIのシリーズAラウンドは、Alt CapitalとAmplify Partnersの主導によるもので、First Round CapitalやYコンビネータ、BoxGroupらが参加した。このラウンドで同社は2500万ドル(約36億円)を調達し、評価額は1億ドルを上回った。
同社の共同創業者であるトマー・コーエンとベン・ワイリーは、ともにデータラベリング(データのラベルづけ)大手のScale AI(スケールAI)の元社員で、マッキンゼーのビジネスアナリストだったコーエンがプロジェクト主任に昇進し、新規事業を立ち上げたタイミングで起業を思い立ったという。
「私たちは、AIの最終的な進化がノートパソコンやキーボードのインターフェースを脱して、現実世界へ移行するときに起こると考えるようになった」とコーエンは話す。そのアイデアは、音声モデルを開発するAI企業向けに、高品質なオーディオデータを提供する企業であるDavid AIとして実現した。
この分野のニーズは、多岐に渡ると同時に専門性が求められる。そのため同社は現実世界の音声データを収集して加工するだけでなく、データの設計や制作も手掛けている。David AIはこれまで約10万時間の音声データを蓄積しており、そこには15言語以上の方言やアクセントのメタデータが含まれている。
熱気に満ちたAI業界にあって、同社のビジネスは比較的シンプルなもので、個人に報酬を支払ってスクリプトを読ませたり会話をさせたりして、音声データを収集している。「あなたがAI企業の経営者だったとしたら、このような作業に時間を割くよりも、アルゴリズムやモデルの開発に専念したいと考えるだろう」とコーエンは言う。
その考えは正しかったようだ。David AIは、創業から1年も経たずして年間の収益が1000万ドル(約14億4000万円)に届く勢いで、「マグニフィセント・セブン」と総称されるグーグルやアップル、メタなどのハイテク大手7社の大半を顧客に抱えるようになったという。ただし、同社は具体的な顧客名を開示していない。
AI企業はデータに飢えている
David AIの調達ラウンドに参加したFirst Roundのパートナー、リズ・ウェッセルは、これは驚くに値しないことだと指摘する。「ここ数年、ChatGPTなどによってテキストベースのAIが主流だったが、今では誰もがAIを音声に対応させる方法を模索し始めている」と彼女は述べている。
ウェッセルはDavid AIの最初の投資家の一人で、1月に完了した500万ドル(約7億2000万円)のシードラウンドを主導していた。彼女は、AI企業が直面している大規模なデータ不足を踏まえ、同社にさらなる成長性を見出している。
Amplify Partnersのゼネラルパートナーであるサラ・カタンザロも同様の見解を示している。「今や企業はデータに飢えている。David AIの素晴らしい点は、音声AIの開発者たちが直面する差し迫ったニーズに応えているとことだ。それでいて解決策は比較的シンプルで、データが必要ならそれを売ればいい。複雑にする必要はない」と彼女は語った。



