ミッション3とドレイパー研究所
──M2の事案を受け、ミッション3(以下、「M3」)以降に変更が出る可能性は?
M2の原因究明次第ですが、その可能性は否定できません。M3で使用する機体「APEX 1.0」(エイペックス1.0)は、M2の「レジリエンス」よりも大型になり、仕様が異なる部分も多分にありますが、どちらも米国のドレイパー研究所の航法誘導システムが深く関わっています。そのためM1とM2で得られた知見はAPEX 1.0に引き継がれることになり、つまり今回のM2の結果はM3に影響します。
──M3では、NASAのCLPS(商業月面輸送サービス)に採択され、NASAから6200万ドル(89億2800万円)補助金を獲得しています。同ミッションでは、ドレイパー研究所をプロジェクトの主体し、米国法人であるispace-U.S.が開発した米国製の機体「APEX 1.0」を提供するという座組みになっています。ドレイパーとタッグを組むという発想はどの段階で生まれましたか?
CLPSに採択されたのが2018年11月で、その前年です。M1・M2の計画時に、誘導制御システムをどうしようかと考えていました。弊社にはその知見がなかったので他社から買う必要があったのです。ただ、当時は月面着陸なんてどこもやっていませんでした。私はドレイパーにお願いできないかと考えていました。ドレイパーは60年前、アポロの誘導制御システムを開発した事業体です。でも、なかなかコンタクトできず、一時は他のサプライヤーも検討していました。
そんなとき、着陸船の開発をリードしていた弊社の米国籍スタッフが、以前にドレイパーと仕事をしたことあると。それで彼にコンタクトを依頼したら、ドレイパーがすごく関心を持ってくれたのです。その時期、ドレイパーもさまざまな改革に迫られていたようです。同社は東海岸(マサチューセッツ州ケンブリッジ)にありますが、宇宙産業においては人材が西海岸に流れる状況にもありました。そんなとき我々がコマーシャルで月に行く話を持ちかけたら、これは良いプロジェクトだと。
当時の社長はグーグルから来た方で、私たちはその時期、「Google Lunar XPRIZE」に参加していました。
(編注・XPRIZE財団が主催し、グーグルがスポンサーを務めた史上初の民間月面探査国際賞金レース。2007-18年にかけて開催され、民間チームが低予算な月面無人探査機の開発を競い、ispaceが運営したHAKUTOはファイナリストの5チームに入った)
そのコンテストにはドレイパーが関連するチームも参加していましたが、月へのミッションは資金が必要となります。当時、私たちは資金調達ラウンドで100億円を獲得した直後でしたので、その参加者のなかでもっとも資金が潤沢でした。その結果、ispaceといっしょに月を目指すべきだと、ドレイパーの社長が判断してくれたのです。
──ドレイパーが開発した航法誘導システムの権利は、御社も持っている?
はい、契約上、エクスクルーシビティ(独占契約)を持っています。


