福井の自然が引き出した「もうひとつの創造」
いけばなから始まった勅使河原宏の創作は、やがて陶芸へ、そして空間や庭の造形へと広がっていった。その転機となったのが、福井との出会いだった。
1970年代初頭、雑誌の取材で訪れた福井に惚れ込み、のちに越前陶芸村に草月陶房を開設。季節の半分以上をそこで過ごしながら、土と向き合う暮らしを始め、竹や和紙といった素材とも、この地での生活を通じて深く関わるようになった。
花器を超えて、いけばなそのものの構成要素になろうとする陶。自然を模倣するのではなく、自らの中にある「もうひとつの自然」をかたちにする。勅使河原宏が生涯をかけて取り組んだ造形的な実験は、決して派手ではないが、深い思索と直感に裏打ちされたものだった。
その延長線上に、今回の展示も位置づけられる。過去に展示された作品を、本人がレイアウトした当時の意図をなるべく再現しながら、ノグチの庭と静かに対峙させる。ここにあるのは、二人のアーティストによる“声なき対話”でもある。

いま、再び勅使河原宏を訪ねる理由
勅使河原宏の作品を「観る」のではなく、「感じる」。その体験は、現代を生きる私たちにとって貴重な時間になる。情報や成果に追われがちな日常の中で、あえて立ち止まり、無言の力に触れる場。この展示には、そんな余白と静けさが満ちている。
そしてなにより、彼の創作姿勢は、アートの文脈に限られたものではない。むしろ「分野を越えて考える」「異なる領域をつなぐ」「自分の感性を軸に場をひらく」といった姿勢は、いまの時代のビジネスや社会の実践に響くものでもある。
展示を見終えたあと、明確な「理解」は残らなかった。けれど不思議なことに、少しだけ元気になっていた。土や紙や書から感じ取った“生命の熱”のようなものが、じんわりと心をあたためていたのだ。


