アート

2025.06.27 10:45

異質なものをつなぐ 草月流・勅使河原宏が実践した編集の技法


《SA NI HA|さには》 Hiroshi Teshigahara: Visionary Worlds 生誕100周年プロジェクトにて

福井の自然が引き出した「もうひとつの創造」

いけばなから始まった勅使河原宏の創作は、やがて陶芸へ、そして空間や庭の造形へと広がっていった。その転機となったのが、福井との出会いだった。

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1970年代初頭、雑誌の取材で訪れた福井に惚れ込み、のちに越前陶芸村に草月陶房を開設。季節の半分以上をそこで過ごしながら、土と向き合う暮らしを始め、竹や和紙といった素材とも、この地での生活を通じて深く関わるようになった。

花器を超えて、いけばなそのものの構成要素になろうとする陶。自然を模倣するのではなく、自らの中にある「もうひとつの自然」をかたちにする。勅使河原宏が生涯をかけて取り組んだ造形的な実験は、決して派手ではないが、深い思索と直感に裏打ちされたものだった。

その延長線上に、今回の展示も位置づけられる。過去に展示された作品を、本人がレイアウトした当時の意図をなるべく再現しながら、ノグチの庭と静かに対峙させる。ここにあるのは、二人のアーティストによる“声なき対話”でもある。

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いま、再び勅使河原宏を訪ねる理由

勅使河原宏の作品を「観る」のではなく、「感じる」。その体験は、現代を生きる私たちにとって貴重な時間になる。情報や成果に追われがちな日常の中で、あえて立ち止まり、無言の力に触れる場。この展示には、そんな余白と静けさが満ちている。

そしてなにより、彼の創作姿勢は、アートの文脈に限られたものではない。むしろ「分野を越えて考える」「異なる領域をつなぐ」「自分の感性を軸に場をひらく」といった姿勢は、いまの時代のビジネスや社会の実践に響くものでもある。

展示を見終えたあと、明確な「理解」は残らなかった。けれど不思議なことに、少しだけ元気になっていた。土や紙や書から感じ取った“生命の熱”のようなものが、じんわりと心をあたためていたのだ。

《SA NI HA|さには》 Hiroshi Teshigahara: Visionary Worlds 生誕100周年プロジェクト 開幕展
会期: 2025年6月7日〜7月6日 *6月29日は休館
会場:草月会館 1階「草月プラザ 天国」(東京都港区赤坂7-2-21)
開館時間:10:00〜19:00(金曜日のみ10:00〜20:00)

文=青山鼓

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