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2025.06.24 17:15

「人間の器を大きくする研究会」からの報告━━編集長コラム

2025年6月25日発売のForbes JAPAN8月号は「10代と問う『生きる』『働く』『学ぶ』」特集だ。10代をエンパワーメントしたいという思いと、次世代を担う10代とともに「未来社会」について問い直していく企画である。「トランプ2.0」時代へと移行した歴史的転換点でもある今、「私たちはどう生きるのか」「どのような経済社会をつくっていくのか」という問いについて、10代と新連結し、対話・議論しながら、「新しいビジョン」を立ち上げていく特集だ。以下は雑誌に掲載していないスピンオフ編集長コラムである。

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Forbes JAPAN8月号


先日、ユニクロの柳井正さんに社長室でインタビューをしていると、長年抱いていたある問いの答えを見つけたと思える場面があった。

その問いとは、「人間の器を人生のなかで大きくすることはできるか?」というものである。

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2014年に創刊したビジネス誌「Forbes JAPAN」の一員として、多くのリーダーや経営者と話をする機会に恵まれてきた。ビジネスで成功を収めた人は、当たり前だが「あの人は器が大きい」と評される人が多い。

しかし、そもそもその「器」とは何だろうか。人としてのスケールのことだろうが、感覚的に語られるばかりで、物理的に計測されるわけではない。

一方で、「器ではない」という言い方もある。地位と器が一致しない、分不相応なケースだ。器の大きな人間になれば分不相応も解決するのだが、その器とやらがそもそも曖昧である。

器を正確に知るには、逆に「器のちっちゃなヤツ」からヒントを探ろうと、AIに「器が小さい」について聞いてみた。以下は、AIの回答を私流に翻訳した人間像である。

一、自分のことしか考えていない、視界が半径ゼロメートル。
一、独断的で常に自分が正しいと思っているので、人の意見を聞かない。
一、部下の失敗を許容できずに、常に感情的になる。
一、人を信用していないので、指示が細かい。

まだまだどっさり出てきたが、自分のことかと思えて心が痛むので割愛したい。これらの人間像から見える器を形成する要素は、視野の広さ、行動量、経験値、権限委譲できる責任感と許容量などだ。この主観的な概念を、もっと具体化されたメソッドにできないだろうか。

例えば、以前、ローソンやサントリーホールディングスの社長を務めた新浪剛史さんにインタビューをした際、視野や大局観について、「天守閣経営」という方法を教えてもらったことがある。

「天守閣に立って、遠くで起きている危機やチャンスをいち早く察知して、現場に降りて伝える。リーダーは、現場と天守閣の間を常に上がったり下がったりしなければならない」というものだ。ただ、せわしなく上り下りするものの、コトの本質を見極めるだけの目がないと、ただのお騒がせなリーダーになってしまう。素養がない人に天守閣経営は務まらない。

「器」を大きくする方法論として、ドンピシャの答えだと思ったのが柳井さんだった。山口県の小さな洋品店から世界3位のファーストリテイリングになるプロセスにそのヒントはある。特に、次の言葉が象徴的だ。

「成功したと思っていい気になるのは、実は恐ろしいことです。失敗を恐れず挑戦し、その失敗から本質を見抜くプロセスこそが必要なのに、安易に成功したと思い上がり、あるいは失敗に目をつぶると、成長につながる大事なことに気づかなくなります。そうならないようにする方法があります。上には上がいることをよく知ることです」

上には上がいることを知る。━━これは経営者としてのスタートが関係している。

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文=藤吉雅春

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