「世界3位になる要素が何一つなかった」という山口県の洋品店「メンズショップ小郡商事」は、厳しい環境に置かれていた。日本が高度経済成長の中にあるのに、炭鉱町であるがゆえに、ヤマが一つ閉山になると、中学校が二校廃校になる勢いで人口流出が起きていたという。
努力しても成果に結びつかず、長く苦労をしたという。しかし、世界トップクラスのアパレルチェーンに定期的に視察に行き、その経営者たちにも会い、「上」を観察し続けた。
そうした行動を自分に課し、行動量は自ずと多くなり、観察をして分析し、挑戦と失敗と要因分析を繰り返す。この方法は、のちに出版した自著『一勝九敗』というタイトルが物語っている。9回トライして失敗しながら、失敗の要因を分析していくと、一勝という大きな成長を築けるという考え方だ。そのプロセスで柳井さんが見出したポイントは、Forbes JAPANのインタビュー記事(2025年8月号)に譲るとして、これは業界研究をすればいいというレベルの話ではない。
次の話も似てないだろうか。
以前、私はミラノに行き、世界的ファッションブランドのブルネロ・クチネリに話を聞く機会があった。彼のもとに、アメリカの成功者たちであるアマゾンのジェフ・ベゾスやリンクトインのリード・ホフマン、セールスフォースのマーク・ベニオフら、ITの巨人たちが訪ねてくるので、何をしにイタリアまで訪ねてくるのかと聞いた。すると、クチネリの哲学の話を聞きに来るのだという。
読書家であるクチネリは、2000年以上前のローマの哲学者たちの本を愛読することで知られる。彼はアメリカから来たITの億万長者たちに「墓場でもビリオネアでありたいのか」と問い、「300年後の地球のために何をしているのか」と尋ねるという。
古典の世界に現代への教訓を求め、300年先の未来を考える。時間の軸を人間の一生の長さをはるかに超えたモノサシにして、大きな器の中に自分を置くのである。
これは柳井さんの「上には上がいる」と同じではないか。若い頃から欧米のトップメーカーを訪ねては研究することと、古典の哲学の世界を研究して現代のビジネスに投影させていくのは「上には上がいる」という意識の現れだろう。つまり、器を大きくするには、大きな器のなかに入って、己の小ささに気づくことなのだ。
そして、これらのエピソードは、紀元前に中国の莊子が説いた「道(タオ)」の思想と重なり、その実践者と言えるのではないだろうか。
では、「天地自然の流れ」のなかで「己の小ささ」を自覚できるようにはどうしたらよいか。これは実は簡単で、どんな境遇にも対しても感謝をする姿勢をとり、「上には上」のものから「ありがたく学び取れる」と喜ぶことである。━━これがForbes JAPAN編集部の私的研究機関「人間の器を大きくする研究会」が見出した答えである。
この報告書は、長崎市で「出島組織サミット」の運営を担う株式会社Betterが7月に発行する感謝をテーマにした書籍にも掲載する予定である。柳井正氏のインタビューは、6月25日発売のForebs JAPAN8月号に掲載している。


