そのせいか日本でもメンタル系の本はあふれているが、本書が他の本と一線を画すのは「瞬間的に効くテクニック」を数多く集めているところだ。
メンタルをやられているときほど、じっくり1冊本を読む余裕などないものだ。しかし、本書をパラパラめくってそのときに必要なテクニックを見つけられれば、短時間でちがいを感じられることも多い。たとえば呼吸法などを使って身体や感情をコントロールすることができるなんて、はじめてやる人にとっては目から鱗が落ちるような体験になるだろう。
私自身、家族の認知行動療法に付き添った経験があり、在住するスウェーデンの精神科でも本書に出てくるテクニックが実際に使われているのを目の当たりにしてきた。具体的には「考えすぎの後回し」や「逆の行動をとる」といったテクニックだ。また、不安が大きくて眠れないときにベッドの中でボディ・スキャンのテクニックを試したところ、そのまま眠ってしまったことには驚いた。記事の最後に、特別にこのボディ・スキャンのやり方(呼吸と身体の感覚に意識を向けるテクニック)を掲載しているので、ぜひ試してみてほしい。
「ジャーナリング」「今ここ」「ブロックを外す」——
テクニックというのは本からであっても精神科で教わったものであっても、どれもそのときの自分にぴったり合っていて習慣化できるというわけではない。確率で言うと、10個テクニックを知って、そのうち1つがお気に入りになるかどうかというところだろう。だからこそ多くのテクニックを学び、試し、そのうちのいくつかでいいから自分のものにしていくことが、いざというときのためにも大切だと思う。
私自身も一時期ストレスでイライラしていた時期もあったが、本書にある運動や感謝のテクニックでそこから脱することができた。今はどちらかというと仕事の生産性や時間の使い方などに興味があり、ビジネス書やスピリチュアル系のコンテンツを日々消費している。しかしこの本を翻訳しているうちに、あちこちで目にする「ジャーナリング」や「今ここ」「ブロックを外す」といった人気メソッドも、実は認知行動療法と同じ原理を使っているのだと驚いた。つまり、本書で紹介されているメソッドは決してメンタルに悩んでいる人たちだけのものではない。やる気に満ちていて今の自分をより向上させたいと思っている人、あるいはやめたい習慣をどうしてもやめられない人にもぴったりのテクニックなのだ。
ストレスは意味のある人生を生きるための代償━━ストレスを完全になくすことはできないからこそ、うまく対処できるようになるためのテクニックを身につけておこう。まさに『夜と霧』の作家ヴィクトール・フランクルの言葉にもあるように。
「刺激と反応の間には空間がある。その空間にこそ、自分で反応を選びとる力が存在する。そこに自由と成長の可能性があるのだ」


