国内

2025.07.30 07:45

日本のアパレル国産比率が1.4%に落ち込んだ今、僕らがするべきこと

名古屋市内にあるジャージ縫製工場

尾州の織物工場に行くと、半世紀以上前につくられたシャトル織機と呼ばれる低速度の織機を未だに使っている工場が多くあります。欧州の工場では産業革命以降、効率を求めてなくなっていきましたが、ゆっくりと織ることで、空気を含み暖かみをもった独特の表情になります。そんな尾州のエリアには毎年多くのラグジュアリーブランドのバイヤーもリサーチに来て、その風合いに魅了され、コレクションに採用しています。

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日本のデニムが世界で注目をされているのも同様で、日本のデニム織機は生地幅が狭く効率的ではないですが、他の国ではできないような素材感が特徴的で、その魅力から海外のセレクトショップでも日本のデニム製品を見ることも増えてきました。

ドイツの学生は日本で何に驚いたのか?

そこには風合いや素材感、技術の高さなどのスペックとしての良さもあることながら、地域性や働く人たちの顔が見えるストーリーというソフトな価値というところも多くあると思います。

ヨーロッパのラグジュアリーブランドを見てみると、華やかな数分間のショーでその価値をつくっていますが、地域性というところを出しているところは少なく、誰が、どこで、どのようにつくっているのか、ということを伝えることは、肥大化しすぎた産業ゆえに薄れてきています。

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そこをクリエイティブ・ディレクターの個性でカバーしようとしていますが、2、3年で交代が続くなかで同一化したブランディングになり、消費者はだんだんとそこから心が離れていっているようにも見えます。ヨーロッパのラグジュアリー市場が頭打ちになり落ち込んでいるのは、そういった理由も一因としてあるのではないかと感じます。

そのなかで日本の地域性のあるものづくりは誠実なもの、フェイクや見せかけではないものとして、より深みのある価値になっていると思います。スーパーマーケットで「愛知県の田中さんがつくった有機栽培のきゅうり」と売られるように、今まで匿名性の強かったファッションが、より名前と誠実な製法を持って世界の市場に受け入れられているように感じます。そこに求められているものは生産者の顔が見えるものづくりです。

尾州織物工場(左)、有松絞り職人(右)
尾州の織物工場(左)、有松の絞り職人(右)

先日、ドイツの大学から相談を受け、尾州のある工場と繋げたのですが、その後訪れた学生から「定年を超えてもまだ働いているなんて、欧州では信じられない」という声がありました。

欧州では一般的に“仕事はお金を稼ぐもの”として割り切っていて、定年を引き上げようとするとデモやストがおきますが、日本では工場で70代80代の高齢の方々がキビキビと働いていて、その姿がドイツの若い学生には衝撃であり、また美しく映ったようです。職人さんたちの顔の皺ひとつひとつにストーリーがあり、長年続けてきた歴史が価値になっているのです。

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文・写真=村瀬弘行

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