心的対比を活用して前へ進む
ニューヨーク大学の心理学教授ガブリエル・エッティンゲンの研究に基づく「空想現実化理論(Fantasy Realization Theory)」は、目標達成のために空想を生産的に活用する方法を説くものだが、その主要戦略の一つが心的対比だ。
心的対比は、未来に対するポジティブ思考を、現在の障壁に対する現実的な省察と組み合わせることで、「現状」と「目指すゴール」とのあいだにあるギャップを埋めるテクニックだ。現実的に考えつつ、目標に向かう実行可能な行動を取る動機付けになる。
心的対比に役立つ枠組みの一つが、「WOOP」メソッドだ。WOOPは、以下の頭文字からなる。
1. Wish(願望):「本当に成し遂げたいことは何か」を自問する。
2. Outcome(結果):その目標を達成した場合の最良の結果を想像する。
3. Obstacle(障壁):目標達成の妨げとなりそうな具体的な障壁を考える。
4. Plan(計画):それらの障壁を克服するための現実的な戦略を立てる。
いざ目標を追いかけ始めると、心身のエネルギーが増大するのを感じるだろう。これは「活性化(energization)」と呼ばれる。活性化は、以下の3つの要素に影響される。
1. モチベーション:目標を達成したいという気持ちの強さ。
2. 主観的な成功の見込み:「目標の達成は現実的だ」と信じられるかどうか。
3. 障壁:障壁を克服できると考えられれば、その信念から、前進するためのエネルギーが生まれる。
WOOPのような心的対比の戦略を用いることで、単に成功を空想するだけでなく、実現に向けた行動に移ることができる。バランスの取れたこのアプローチは、モチベーションを維持するだけでなく、実現の過程で課題を克服するためのツールも授けてくれる。
ただし、忘れてはならないことがある。それは、目標を達成するには、満足遅延(後から大きな報酬を得るために、目先の小さな報酬を我慢すること)を受け入れる必要がある、ということだ。
目標達成には、「即時の報酬」の後回しが重要
満足遅延を実践すると、目の前の気晴らしや誘惑に負けることなく、長期的な目標に向かって進み続けることができる。例えば、テレビのドラマシリーズを一気見する代わりに、その時間を目標達成に近づくためのスキル向上やプロジェクトに費やせる。
同様に、ジムに通い続けることも、満足遅延の一例だ。ジムに通っても、体やウェルビーイングにすぐさま変化が生じるわけではない。特定の健康上の目標を達成するには、時間と努力、そして継続が必要となる。
「即時の報酬」を遅らせるたびに、自己制御は強化される。この自己制御は、時間とともに、障壁や挫折を乗り越えるための精神的な強さを育む。
満足遅延は、達成感も高める。目標達成は、忍耐と努力で勝ち取られるものだからだ。研究によると、目標達成を阻むような行為に心を引かれたとしても、ただちに屈するのではなく、そのタイミングを遅らせることで、たとえ最終的に目標達成に失敗したとしても、自己制御に対するポジティブな自己認識を維持する効果のあることが示唆されている。
したがって、これから目標の達成を目指す際には、ただ夢を見るだけではいけない。計画を立て、省察し、行動に移すことが重要だ。自分の作りたいビジョンボードを作成するとしても、それを単に「理想の現実」を想像して楽しむためのツールではなく、行動に移すためのステップとして活用することを忘れないようにしよう。


