心理学研究では、リーダーシップの取り方にはその人物の生い立ちが深く影響する、ということがよく言われる。中でも、自己愛傾向の強いリーダーシップは幼少期の逆境体験が引き起こすさまざまな問題のひとつとみなされている。
自己愛的なリーダーシップ・スタイルには、自分自身を過大評価する、常に称賛されたがる、批判に対して過敏に反応する、支配欲が強い、といった特徴がある。こうした特性がカリスマ性の発揮や積極的な意見表明につながる場合もあるが、非常に危険で有害な体制をつくり上げてしまう恐れもある。特に、政治の分野で発現する場合は後者になりがちだ。
今年5月に心理学の査読付きオンライン学術誌Frontiers in Psychologyに掲載された研究論文では、「自己愛性政治的リーダーシップ」と称されるリーダーシップ・スタイルについて幼少期の起源を探ろうと試みている。具体的には、ナチス・ドイツの総統アドルフ・ヒトラー、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、ドナルド・トランプ米大統領の事例を通じて、権力に執着するリーダーシップ・スタイルの心理的基礎が築かれる際に、幼少期の特定の体験がどのように原動力となるのかを検証している。
なぜ幼少期が重要か、どこで線引きするのか
この研究では、分析の対象とした3人が自己愛性パーソナリティ障害の診断基準を満たしているとは主張していない。それは倫理的にも主張してはならないものだ。米国心理学会(APA)が確立した倫理規定「ゴールドウォーター・ルール」では、精神科医が自身の患者ではない公人について診断を下すことを明確に禁止している。
論文の著者であるユスフ・チフチはこの点について「政治指導者に対して心理テストを行ったり、フロイトの寝椅子に横たわらせて精神分析にかけたりはできない。しかし、政治指導者の幼少期や家族に関する詳細な情報を見つけることは可能だ」と説明している。
チフチは、日記やインタビュー記事、家族の経歴や記録、歴史文献から得られる情報を分析し、成人後に発現した自己愛的な特性を説明できそうなトラウマ(心の傷)、喪失体験、親子関係のパターンを特定した。
これらの心理学的解釈は、世界で最も物議を醸している指導者たちにレッテルを貼るものではない。彼らの自己愛的な言動のルーツを理解する一助として、いわば拡大鏡を提供するものだ。



