「人々や地球が抱える問題を解決して利益を上げることであり、問題を引き起こして利益を得ることではない」。企業の目的をこう提示したコリン・メイヤー教授の主張とは。
「資本主義システムは狂い始めている」
こう警鐘を鳴らすのは、英オックスフォード大学サイード経営大学院名誉教授のコリン・メイヤーだ。格差は拡大の一途をたどり、人々の不満は限界に達している。
同教授によれば、資本主義の軌道修正が必要だという。特に「『利益の源泉』を企業に問うことがカギになる。どのように利益は上げているのか? 他者を害することなく利益を得ているか?」。それを明確にすることが資本主義改革につながる。
教授が重視する企業の道徳基盤は、「日本近代経済の父」渋沢栄一の教えに重なるところがあるという。『資本主義再興 危機の解決策と新しいかたち』(宮島英昭・監訳、清水真人・馬場晋一・訳、日経BP)を著したメイヤー教授に、あますところなく持論を語ってもらった。
──『資本主義再興』の序文で、「利益」と「良い利益」の定義づけをしていますね。「利益の源泉」を問うことが重要だと。
コリン・メイヤー(以下、メイヤー):最初に断っておきたいことがある。それは、利益が資本主義システムの絶対的な源泉であるということだ。利益は資本主義と企業を動かす原動力だ。利益がなければ資本もなく、資本主義自体が成り立たない。
まず、利益の重要性を理解したうえで、考えなければならないことがある。「利益の源泉」だ。利益の上げ方によっては、社会や自然界に、恩恵だけでなく害が及ぶこともある。つまり、「利益の源泉」を問わないことが問題なのだ。それが、社会の二極化やポピュリズムの台頭、環境の悪化を招いている。
そこで、重要になってくるのが、利益に伴う「道徳的な前提条件」だ。ユダヤ教指導者ヒレル曰く、「自分にとって嫌なことを人にしてはいけない」。つまり、「他人を犠牲にして利益を得るべからず」という教えだ。私の主張と重なる。
これは、医療の原則「ヒポクラテスの誓い」に酷似している。「(医師は患者に)害を与えてはいけない」という原則だが、これをそのまま事業に応用することはできない。企業は、値上げという消費者への「害」と引き換えに賃上げを行うべきか、といった苦渋の決断を常に迫られるからだ。
とはいえ、企業は害を与えることで利益を得てはならない。このビジネス版「ヒポクラテスの誓い」を基に、利益に対する理解が変われば、世界中の企業や経済、社会、政治のあり方が一変するだろう。
企業の目的とは、人々や地球が抱える問題を解決して利益を上げることであり、問題を引き起こして利益を得ることではない。世界で最も成功している企業の多くは、この命題の重要性を認識している。例えば、北欧デンマークの企業だ。
デンマークは、1人当たり名目国内総生産(GDP)が最も高い国のひとつであり、格差が最も小さい国のひとつでもある。労使関係も良好で、幸福度も高い。こうした特徴に貢献しているのが、デンマークの製薬大手ノボノルディスクなど、「産業財団」「企業財団」と呼ばれる、財団所有の企業だ。多くの場合、産業財団は世界中の株式市場に上場し、株式が活発に取引されている。支配株主が財団、つまり、慈善団体であることが特徴だ。
これは非常に重要な意味をもつ。まず、大株主の存在で、企業に安定性や長期的視点が生まれる。次に、企業の所有者が財団や慈善団体であるため、他者に害を与えず、恩恵をもたらす。そして、圧倒的利点は、ほかの上場企業より存続年数がはるかに長いことだ。デンマーク経済に大きく貢献し、商業的にうまくいっているだけでなく、社会や環境にも恩恵がある。



