──「公共部門と民間部門は手を取り合うべきだ」と書いていますね。
メイヤー:拙著の極めて重要なポイントだ。企業が単独でできることには限界がある。先述したノボノルディスクは、世界中の大学や医師、病院、政府の医療従事者と連携している。同社は2型糖尿病治療薬のインスリンを生産しているが、貧しい国々の人々のために費用対効果の高い治療方法や予防策を提供するためのベストな方策を見つけるべく、各方面と協働した。
企業は特に政府と連携すべきだ。企業は、環境にとっていいことをしたり、社会やコミュニティの繁栄に貢献したりしても、それを必ずしも事業の収益源にできるとは限らない。だからこそ、政府が税収を使い、社会に恩恵をもたらす企業を支援することが重要だ。
例えば、バイデン米前政権の「インフレ抑制法(IRA)」が好例だ。大規模な環境対策を盛り込んだ景気刺激策だが、環境問題の解決を目指す企業に大規模な投資を行い、助成金を提供した。官民がうまく連携すれば、社会と環境に大きな恩恵を与えることができる。投資家へのリターンが増え、企業にも大きな恩恵が及ぶ。
私が共同委員長を務めた「英スコットランド政府ビジネス・パーパス委員会」も、官民連携の好例だ。特に印象的だったのは、企業リーダーや投資家、労働組合役員、市民、規制当局、政府がパーパスや目的意識、アイデンティティを共有する様子を、この目で見ることができたことだ。
──日本の読者にメッセージを。日本企業は、より良い資本主義システムの構築にどのように尽力できると思いますか。
メイヤー:日本の経営者や起業家には、果たすべき大きな役割がある。日本の産業改革に主要な役割を果たした渋沢栄一の哲学や道徳を重んじる思想は20世紀の日本に受け継がれ、高度経済成長期における日本企業の成長につながった。
とりわけ、起業家やベンチャーキャピタリストは重要な役割を担っている。先見性に富むアイデアを生み出し、解決可能な問題を特定し、強固な目的意識とパーパスをもっているからだ。彼らは、利益と自社の成長を可能にする方法で目的を達成したいと考えている。
こうした若い企業こそが、革新的な問題解決の源泉だ。企業は成長し、所有権が分散されるにつれて、目的意識やパーパスを失うことが多い。そうした意味でも、日本の起業家に課された役割は重要だ。
コリン・メイヤー◎英オックスフォード大学サイード経営大学院名誉教授。1994年より教授。2006~11年まで同経営大学院の初代学院長を務めた。著書に『資本主義再興 危機の解決策と新しいかたち』(宮島英昭・監訳、清水真人・馬場晋一・訳、日経BP)など多数。


