──「日本語版への序文」に、「資本主義の父」アダム・スミスと、「日本の資本主義の父」渋沢栄一が登場します。
メイヤー:まず、アダム・スミスについて理解すべき重要な点は、彼には2冊の著作があることだ。『国富論』のみが有名だが、その前に『道徳感情論』を書いている。
2作目の『国富論』は、市場経済がいかにして企業と経済の成功をけん引できるかがテーマだが、『道徳感情論』では、個人の行動基盤とすべき道徳的枠組みが語られている。スミスは、『道徳感情論』を『国富論』の前提条件だとみなし、悪い企業を阻止しなければ、競争と市場が損なわれると考えていた。
一方、『論語と算盤』を書いた渋沢栄一は明治維新後、啓蒙的な実業家として多くの事業を立ち上げ、日本経済の近代化に貢献した。ビジネスマンとして大成功を収めただけでなく、企業行動に関する哲学も生み出した。基本的には商人の行動規範をめぐる儒教の教えに沿ったものだが、渋沢は著書のなかで、20世紀の日本企業をけん引すべきものは何かについて語っている。
スミスが『道徳感情論』で語ったことと、渋沢が説いた正しいお金の稼ぎ方、そして、私が考える企業人の道徳的基盤の間には大きな類似点がある。企業の目的は人々と地球の問題を解決して利益を得ることだという概念を会社法の中心に据え、経営陣の義務にすべきだ。
──渋沢栄一の主張は単なるステークホルダー資本主義ではないそうですね。
メイヤー:ステークホルダー資本主義とは、株主だけでなく、従業員やサプライヤー、コミュニティ、自然界など、全ステークホルダー(利害関係者)の利益を促進することだ。株主資本主義の代替として、ある時期、大きな支持を集めた。
だが、実現不可能だという批判が目立つようになった。複数の目的を追うと混乱が生じ、業績が悪化する。私も渋沢と同じ考えだが、企業は全ステークホルダーの利益を促進するのではなく、まず特定の問題に絞り、特定のステークホルダーの利益を促進すべきだ。ただし、ほかのステークホルダーを犠牲にしてはならない。
渋沢の考えとステークホルダー資本主義の最大の違いは、渋沢が、企業はどのように経営的成功を推進できるかについて考えていたことだ。彼は、実に革新的で刺激的な企業リーダーにしてアドバイザーだった。多くの企業に助言を行い、革新的かつ想像力に富む方法で問題を解決しようとした。ノボノルディスクなど、世界で最も成功している企業も、商業的に実現可能で革新的な問題解決法を編み出す。


