サイエンス

2025.06.09 18:00

セレブがハマる「名声」は麻薬か怪物か、心理学で読み解く「内なる世界の4つの段階」

KOTOIMAGES / Shutterstock

3. 「適応」の段階

人生のあらゆることと同様に、名声にも慣れの時期が来ることがある。俳優キアヌ・リーブスのように、誰もが知る有名人として自らが占めるべき場所を確保しつつも、「普通の人っぽさ」をある程度キープしているように見えるセレブリティもいる。

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もちろん、本当はどんな人なのかは私たちには知るよしもないが、ほぼ、あるいはまったくスキャンダルに足をすくわれることなく、長く輝かしいキャリアを築いてきた人たちの希少なグループが、わずかながら存在している。

これが「適応」の段階だ。この段階に至る体験を享受できるのは、名声という怪物を征服し、ほぼ無傷で生還した、類いまれな者だけだ。名声という「怪物」が持つ特質、そしてキャンセルカルチャーが力を増す今の世の中において、これは容易なことではない。

上記の『Journal of Phenomenological Psychology』に掲載された研究では、この段階に到達したセレブリティは、有名であることの落とし穴を克服するのに役立つような、「名声との付き合い方」に関するテクニックを活用していると指摘している。

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あるセレブリティはこう述べている。「目を合わせないか、あるいは歩き続ける。(中略)そして(周囲の人に名前を呼ばれても)耳に入れない」。こうした行動パターンは、隠遁者的なふるまいにつながる可能性もあるが、混沌とした世の中で健全な感覚を保つのに役立つものも多い。

4. 「受容」の段階

万人に愛される小説「ハリー・ポッター」シリーズの作者である作家、J・K・ローリングが、何をしても「正しい」と称賛されていた時があったのを覚えているだろうか? だが、名声は移ろいやすい上に、一般大衆の意見も目まぐるしく変わる。特に、有名人が持つ価値観が、かつてその人をあがめていたファン層と大きく異なる場合はなおさらだ(J・K・ローリングは、トランスジェンダーをめぐる発言で物議を醸し、攻撃も受けた)。

ニューヨーク・タイムズに2006年に掲載されたある記事が雄弁に語っているように、「名声は自らを食い尽くす」のだ。これは、大半のセレブリティが最終的に受け入れる状態といえる。誰もが知る有名人であることから得られる利点には、いずれメディアが敵対してくるという落とし穴がつきものだ。それは、乗りこなさなければならない波のようなものだ。

こうした問題への対抗策として、多くのセレブリティは、名声そのものよりも自身の仕事に集中する道を選んでいる。前述のニューヨーク・タイムズの記事にも、自らが創り出す作品や、それが人々に与える影響に救いを見いだすセレブリティが多い、との記述がある。こうしたセレブにとって、こうした在り方は、有名であることとのトレードオフといえる。

私たち一般人の大半は、一推しのセレブリティを「自分のもの」であるかのように感じているが、きらびやかな輝きの背後にいるのは、神でもなければモノでもなく、血の通った人間であることを忘れてはならない。はた目から見れば、名声は魅力的に映るかもしれないが、それには高い代償が伴う。しかもその代償は、本人の同意がないまま、メンタル面や感情面でのウェルビーイングで支払われることがほとんどなのだ。

forbes.com 原文

翻訳=長谷睦/ガリレオ

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