ヘビは、古くから人類の想像をかきたてる存在であり、危険から知恵まで、あらゆる物事の象徴とされてきた。だが、世界に約4000種を数える地を這うヘビたちの中で、空を制したのはトビヘビ属（Chrysopelea）だけだ。
トビヘビ（英名ではflying snakeまたはgliding snake）と総称される彼らは、独自の適応を進化させた。木の枝からジャンプし、下降をコントロールして、一度の滑空で最大100mもの水平距離を移動できるのだ。
こうした空中の曲芸により、トビヘビは熱帯雨林を3次元の活動の場に変え、滑空なしには利用できない獲物や逃走経路を手に入れた。
トビヘビ属を構成する5種のうち、最も美しいのは、おそらくゴールデントビヘビ（学名：Chrysopelea ornata）だ。光沢のある緑と金色の鱗に、網目模様と赤い斑点をあしらったその姿は、生息域の中でも最も視覚的魅力にあふれたヘビの一つといえるだろう。
だが、ゴールデントビヘビの魅力は表層的なものにとどまらない。このヘビは、樹上での暮らしに特化した驚異の進化的ソリューションを体現している。屈強な筋肉と、キール（縦方向の隆起）のある鱗は、登はんだけでなく、神経と筋肉の協調により、高度に制御された「飛行」さえも実現する適応形質なのだ。
ゴールデントビヘビの基本情報
南アジアと東南アジアの在来種であるゴールデントビヘビは、インド、スリランカ、ミャンマー、タイ、マレーシア、ベトナム、中国南部、シンガポールに分布する（シンガポールでは移入種）。
この種は、低地熱帯林やマングローブを好むが、人為的改変が進んだ環境にもよく順応する。ココヤシの木立や、草葺き屋根、庭の植栽の中でも頻繁に観察される。
最大全長は1.3m。がっしりして、やや扁平な胴体をもち、腹側の鱗には、木登りに役立つはっきりしたキールがある。頭部は幅が広く、大きな眼は日中の視覚に優れている。
ゴールデントビヘビは、口の後方の歯に弱毒を備える後牙類だ。主に日中に待ち伏せるタイプの狩りで、トカゲなどの小型脊椎動物を捕える。大きな眼と素早い攻撃のおかげで、たやすく獲物を捕えることができる。さらに、枝のあいだを滑空する能力によって狩り場を広げ、生存の見込みを高めている。
（余談：ほとんどのヘビは単独性で、アジアのトビヘビ類も例外ではないが、すべてがそうというわけではない。先日、カナダの小さな町には7万5000匹のヘビが大集合した。その理由はこちらの記事で）
ゴールデントビヘビの体色には、大きく分けて2つのタイプがある。黄緑色のタイプは、くっきりした黒い縦縞模様に加え、ときに背面に赤い斑点が散る。もう一つのタイプは、地色は同じだが、そこに薄い横縞を重ねたような外見だ。どちらの模様も、トビヘビが周囲の木々の葉に溶け込むのに役立っている。
