サイエンス

2025.06.07 17:00

「空飛ぶヘビ」は樹上から飛び立ち100mも滑空、可能にしたヘビの驚異的な適応力

パラダイストビヘビ(Lauren Suryanata / Shutterstock)

滑空技術を極める

本物の飛翔能力をもつ動物とは異なり、トビヘビが行うのは「滑空」だ。彼らは体を扁平にし、腹側に断面がU字型になるくぼみをつくり、空気抵抗を大きくすることで、垂直落下を水平移動に変える。

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滑空を開始する際、トビヘビは尾を枝に巻きつけて体を支え、頭を下に垂らしたあと、尾を解いてダイブする。このとき、筋肉を収縮させることで、胴体の断面を円形から、扁平で強くくぼんだ形に変形させ、翼のような形状をつくりだす。離陸時の推進力に、胴体の変形が加わることで、長距離滑空を維持するのに十分な空気抵抗が得られる。

ゴールデントビヘビは空中で、横方向にS字状のうねるような動作を行い、空気抵抗と進行方向を微調整する。うねりの振幅と速さを変化させることで、滑空の角度を調整するだけでなく、目指す着地点に向かってターンすることさえできる。

複数の研究により、樹洞や、一定の傾斜の枝から離陸することで、さらに滑空効率を最適化できることが示唆されている。

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研究者が記録した滑空距離は、30mの高さからの場合で100m以上に達した。この滑空距離は、ムササビなどの滑空性哺乳類に匹敵し、四肢も皮膜もない動物としては驚異的だ。

トビヘビ属の多様性

分子系統解析によると、トビヘビ属の滑空能力は、この属の共通祖先において、約2000万年前に一度だけ進化したことが示唆されている。この属には現在5種(C. ornata、C. paradisi、C. pelias、C. rhodopleuron、C. taprobanica)が知られており、インド・スリランカから東南アジア、インドネシアの島々にまで分布する。

トビヘビ属で最も有名なのは、パラダイストビヘビ(C. paradisi)とゴールデントビヘビの2種だ。前者は、ゴールデントビヘビよりもさらに滑空効率に優れており、ボルネオ島やフィリピンの高い樹冠を自在に飛び回る。

スリランカに生息するハイオビトビヘビ(C. taprobanica)は、スリランカと南インドの固有種だ。淡褐色の鱗には、黒い縁取りと暗色の横縞があり、木漏れ日を思わせる体色は、鬱蒼とした植生にカムフラージュするのに適している。

こうした驚くべきヘビたちは、比較的シンプルな形態変化によって、まったく新しい生活様式が可能になることを教えてくれる。こうした生物のデザインに着想を得たバイオミミクリー(自然界の生物を模倣し、新たなテクノロジーなどを生み出そうという考え方)は、今後も工学やロボティクスの発展を支え続けるだろう。

forbes.com 原文

翻訳=的場知之/ガリレオ

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